「とりあえず、AIでなんかやってよ」
AIという言葉は、その本質とは裏腹に、「よく分からないけど何かスゴそう」な漠然とした期待と不安を連れてやってきます。
「AIでなんかやれ」という曖昧な期待を、構造化し、方針化し、組織戦略と業務プロセスに統合していくための実践的なアプローチを整理します。AIを神格化せず、現場を軽視せず、業務に馴染ませるための視座と方法をお伝えします。
「AIでなんかやれ」という言葉の本質
この言葉は、経営側の抽象的な不安と抽象的な希望のあいだから生まれます。
- 「AIを使ってないと、うちは取り残されるのではないか」
- 「他社が成果を出しているらしい。うちでもやるべきでは」
- 「AIに関して社内に知見がないことが不安だ」
言語化されていないだけで、こうした感情が詰まっているのです。経営者は、自らが言語化できない不安を、最も言語能力のある部署に投げてくる。それは「DX推進部」「経営企画部」「新規事業部」「情報システム部」であり、たいていの場合は部長職の方です。
もし、AIでなんかやれを言われいまから情報を集めようとするならば、それはあなた一人でキャッチアップして対応できるような状況ではありません。この文脈でのAIは、技術じゃありません。情報戦です。そしてその戦場は、毎日地形が変わります。
1年前に流行っていた情報は、今や足枷です。ChatGPTが話題の中心で、Claudeが使いやすいとか、Geminiが出たとか、Copilotが便利とか、その程度の話だけをしているなら、ちょっとキツいかもしれません。
「情報収集してから動きます」は死亡フラグ
まず言いたいのは、「情報収集してから考えます」という思考は、もう詰んでるということです。
AIの世界では、情報収集している間にすべてが変わります。プロダクトの名前、仕様、価格体系、連携可能なツール、それらが一週間で変わることもザラです。
誰かが作った情報まとめ記事を読んでいる間に、その記事はすでに旧式化しています。なので、まずその姿勢を捨てなければなりません。「知ってから動く」ではなく「動きながら知る」しかないのです。
一人で戦場に出ない
AI活用は総合戦です。思いつきや努力で勝てる話ではありません。
- AIをどう活用するかを考えるスキル
- AIを技術的に実装するスキル
- 業務との接続を設計できるスキル
- 実装されたAIの成果を評価できるスキル
この4つのスキルが最低限必要です。そして、たいていの企業ではこの4つすべてを兼ね備えた人はいません。だから、連携が必要です。専門家を巻き込む、社内で巻き取る、外部のパートナーを見つける、その判断を最初にしなければなりません。
わからない人が考えたPoCは時間対効果が悪い
PoC(概念実証)をやりたがる人が多いですが、素人が設計したPoCほど時間対効果が悪いものはありません。
例えば、「AIチャットボットを入れてみよう」というPoC。何の課題を解決するのか、誰の業務がどう変わるのか、わかっていない状態で作っても意味がありません。そして、評価指標が曖昧なままPoCをやっても、「効果は微妙でしたね」で終わります。
餅は餅屋
すでにキャッチアップしているではなく、これからキャッチアップするというなら、無謀です。
AIに関する全体像、業界のトレンド、法的リスク、プロンプト設計、API連携、セキュリティ、業務導入のハードル、それらを情報更新し続けて、自社に適合させることはとてもいまからでは間に合わないのです。
医者でも弁護士でも、専門家に聞くのが当たり前なように、AIは、プロの専門家に聞くべき領域になっています。
今日知ってる知識を、明日には捨てる認識
これは脅しでも何でもなく、事実です。AIエージェント、オーケストレーション、A2A、MCP、RAG、LangChain、これらの概念も日々進化しています。
1ヶ月前まで有効だった設計が、今は非推奨になることも珍しくありません。フレームワークが一気に変わり、ツールの競争も激しい。もう、過去の成功体験や「これでいける」という感覚は通用しません。
アンラーニングの連続をしていく必要があります。
第一ステップ:「AIでなんかやれ」を翻訳する
この「AIでなんかやれ」を受け止め、「つまり何を意味しているのか?」を構造化することが、最初の仕事です。「なんかやれ」という指示には、本質的な曖昧さが含まれています。しかし、放置しておくと「やってない=サボってる」という評価に変わる危険性があります。
意図の抽出
- 誰が言ったのか(代表取締役/取締役/現場責任者)
- どんなタイミングで出た言葉か(予算策定/業績悪化/競合分析後)
- 背後にどんな経営課題が隠れているのか
この3点を整理するだけで、「なんか」の中身が浮き上がってきます。
なんかやれを翻訳
「AIでなんかやれ」は、多くの場合以下のいずれかに翻訳できます。
- 業務効率化したいが、何から手をつけていいか分からない
- 新規事業の種を探しているが、人手も時間も足りない
- 他社に負けてる気がして、不安を打ち消したい
- 次世代的な取り組みを社内外にアピールしたい
この翻訳が完了すれば、やるべきことは明確になります。
第二ステップ:「現場解像度ファースト」で向き合う
AIを導入する際に最も失敗するパターンは、「現場を見ずに設計すること」です。
AIは「魔法の箱」ではありません。現場業務という地面に根ざさないAI導入は、必ず浮きます。そして、浮いたまま宙に消えていきます。
業務プロセスの棚卸し
まずやるべきは、業務プロセスの洗い出しです。「何をやっているのか」だけでは不十分です。「なぜやっているのか」「誰がやっているのか」「どれくらい時間がかかっているのか」「変動性があるのか」といった問いをセットにして棚卸しします。
AIが入りやすい場所の特徴
以下のような条件を満たす業務は、AI導入の入口として優秀です。
- パターン化されている
- ルールベースで判断できる
- 人手でやっているが、情報の整理・分類が多い
- 入出力が明確である(例:請求書を読み込んでシステムに登録)
逆に、感情の介在が強い業務や、人間同士の関係性で成立している業務は、最後までAI化しにくいことを知っておくべきです。
第三ステップ:PoCのワナを避ける
AI導入において「まずPoCから始めよう」という声がよく上がります。しかし、このPoCという言葉には重大なワナがあります。
- ゴールが曖昧なまま始まる
- 成果が出ても、本番導入までに至らない
- 現場の納得感が得られない
つまり、「PoCだけやって、誰も責任を取らない」という構造になりやすいのです。
やるべきことは、「PoCありき」の導入ではなく、PoCが“戦略実装の一部”になるような設計です。
第四ステップ:「小さく始めて、大きく育てる」AI導入
最初から全社導入を目指すと、99%失敗します。
まずは小さな領域で、「小さな勝ち」をつくる。それが全社展開の足がかりになります。
マイクロAIの活用
いま主流になりつつあるのが、マイクロAIエージェントという概念です。
これは、特定の業務プロセスに特化した、小規模かつ実用的なAIです。
- 顧客とのメール文面を自動生成するエージェント
- 商談録音を要約し、次の打ち手を提示するエージェント
- アンケート回答を自然言語で集計するエージェント
など、“業務×AI”という組み合わせで地味だけどピンポイントに設計することで、現場に受け入れられやすくなります。
第五ステップ:「なじませ」
AIは「導入したら終わり」ではありません。導入後の“なじませ”こそが勝負です。運用フェーズでやるべきことは以下です。
- ユーザーの利用状況を継続的に拾う
- 精度や使い勝手に関するフィードバックを可視化する
- プロンプトチューニングはこまめに行う
- うまくいくシーンとうまくいかないシーンを記録する
- それらのレポートをまとめて、AI事業者にセカンドオピニオン的に投げてみる
AI導入は一発でうまくいくものではなく、マーケティング業務のように改善と試行を重ねる業務であることを理解しておくべきです。
AI強化人間になる
「AIでなんかやれ」
この曖昧な言葉に、ただ振り回される人と、それを“翻訳”して組織の構造に落とし込む人がわかれます。
曖昧な命令を受け取り、
そこから意図を読み取り、
目的に変換し、
戦略に言語化し、
業務プロセスに接続し、
現場とAIをつなぎ直す。
それができるのは、「AIツールを使える人」ではありません。
それは、「業務の解像度を持ち、かつAIの特性と限界を深く理解している人」です。
「AIでなんかやれ」に戸惑い、AIツールのカタログを漁るか。
それとも、「なぜAIか」「どの業務か」「どのように適用するか」を問い直し、自ら設計を始めるか。
コーレは、AI導入プロジェクトの戦場に出ようとする方の力になります。
これまで培ってきたAI導入の知見と、コーレが独自に持っているAI-BPR CLOUDを活用して、AI導入プロジェクトに伴走するAIパートナーとして力になります。
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