短期間で組織全体に生成AIを根付かせる
「自社や自組織で生成AIを活用していきたいが、どこから手をつければいいのかわからない」という方に向けて、4つのステップと、その前提となるステップ0を提示します。
これらを順番に実践していただくだけで、遅れを自覚しながらも短期間で組織全体に生成AIを根付かせる流れを作れるはずです。
第0章:いまから導入を検討するなら、もう遅れていることを自覚する
生成AIの進化は想像以上に速い
生成AIは、ここ数年の技術の中でも、特に急速に発展してきた分野です。
ChatGPTが一般的に広がり、そこから一気に「文章」「画像」「音声」「動画」など、あらゆるメディアの自動生成や業務効率化が可能になりつつあります。
そのうえ、研究が進むだけでなく、実務レベルのサービスや商用ツールが次々と登場し、そのアップデート頻度も異常なほどに高い状況にあります。
1ヶ月でも動きを見逃すと「いつの間にか新しいモデルやツールが出ていた」「他社が先に導入して成果を上げていた」なんてことになりやすいのです。
「いまから導入」は、かなり後発組
もし組織として、「そろそろうちも生成AIを取り入れてみようか」と考えているのであれば、それは決して早くないと考えてください。
実際に多くの企業・組織では、数ヶ月前から実証実験(PoC)を進めたり、海外の最新事例を追いかけたりして、一定の活用ノウハウを蓄えています。
ですから、「うちはまだ大丈夫」という油断があると、周回遅れになってしまう可能性が高いわけです。
とりあえず、「いまから動き出そうかとるいう時点で、すでに大きく遅れている」と素直に認めたうえでプロジェクトに取り組むことが重要です。
遅れているからこそ手堅く進める
一方で、遅れているからこそのメリットもあります。
先行している組織は、新しい技術を適用する過程で多くの失敗や試行錯誤を経験しています。
そうした知見が既に世の中に溜まり始めている状況です。
そのため、後発組としては、先行組がぶつかった壁や乗り越えた課題を、最初から把握しながらスタートできる利点があります。
「どうせ遅れてるし」とことはデメリットではなく、「先行事例をうまく活用して、一気にキャッチアップしよう」という手堅いプロジェクト推進ができることはメリットなのです。
筋トレのように、コツコツとAI脳を鍛える
コーレでは、よく「生成AIの導入は筋トレと似ている」と言っています。
筋トレも、もっと早く始めていればベストだったかもしれませんが、今日から始めれば1年後には確実に違う身体に変わっています。
1日だけハードな筋トレをしても理想の身体になるわけがなく、毎日コツコツと筋トレをすることで理想の身体になっていくものです。
生成AI導入も、まったく同じです。
いまから手をつけるなら、それは「今日が一番若い日」というマインドで、ゼロからスタートして1年後に大きく飛躍するのを目指していきましょう。
毎日コツコツと生成AIに触れていき、身体や思考をAI脳にすることが大切です。
ただし、筋トレと同じく、正しいトレーニングメニューや適切な指導者が必要です。
それを踏まえて、次から紹介する4つのステップをぜひ活用してみてください。
第1章:ステップ1 —— 外部コンサルタントにお手本を見せてもらう
後発組で内部だけで解決は無理
社内IT部門や有志メンバーの限界
多くの組織がAI導入を検討するとき、最初にやりがちなのは、「社内のIT部門やAIに興味のあるメンバーでなんとかしよう」という発想です。
もちろん、社内にAIに詳しい人がいれば、ある程度はスムーズに進むかもしれません。
しかし、生成AIの世界は、いままでのITドリブンのプロジェクトとは比較にならないほど進化の速度が速い領域です。
たとえば、社内のIT部門が現場サポートに追われていたり、既存システムの保守運用にリソースを割いている場合、日々アップデートされる生成AIツールを追う時間はなかなか確保できません。
また、生成AIの特性上、新しいツールやモデルが数日から数週間単位でリリースされることも珍しくありません。
AIに興味がある有志メンバーが独学で学んでいたとしても、どのツールが最新・最適なのか、業務にどう応用すればいいのかを常にアップデートするのはかなりの負担です。
生成AIは1週間で進化する
生成AIでは、1週間にはベストだと思われていたツールが、翌月には性能差で大きく差をあけられてしまうケースもしばしばあります。
さらに、新規参入するベンダーや、既存ベンダーの大型アップデートが頻繁に起きるため、「気づいたら社内で検討していたツールが古くなっていた」ということも起こり得ます。
こうした“変化の激しさ”に対して、社内の有志メンバーだけで対応するのは相当ハードルが高いのが現実です。下手をすると、PoCに膨大な時間をかけた挙句、「導入したころにはもう別のツールが普及していた」という笑えない事態になりかねません。
なぜ外部コンサルタントが必要なのか
そこで頼りになるのが、外部の専門家である生成AIコンサルタントです。
コンサルタントは「生成AIならでは」の最新情報を常時キャッチアップしつつ、複数の組織での導入事例を見ています。
- 「あの組織ではこういうツールを入れて成功したが、別の組織では似たツールを使って失敗した。その違いは何か?」
- 「このツールは使いやすいが、大量データを扱うにはパフォーマンスが足りない」
- 「海外で流行しているサービスだが、日本語サポートが弱いので日本企業にはまだ早い」
こういった具体的な知見は、日々のニュースやSNS、論文を追っているだけでは身につきません。
“現場での失敗や成功を数多く経験”している人だからこそ、最初の段階で最適解に近づくアドバイスができるわけです。
“最初の成功体験”を得るには専門家の目が必要
特に導入初期には、「どこから手をつければいいの?」「まずは何をAI化するべき?」という声が社内各所から上がるでしょう。
そんなときに、全体を俯瞰できる専門家の存在が、想像以上に心強いものです。
生成AIの導入は、テクノロジーの話だけでなく、業務プロセスの洗い出しや社内の合意形成など、組織横断的な仕事が多く発生します。
その橋渡しをコンサルタントが担ってくれることで、社内メンバーはより集中しやすくなり、結果的に最初の成功体験をスピーディーに得られます。
コンサルタントを活用するメリット
ここでは、外部コンサルタントを活用することによって得られる具体的なメリットを4つ挙げてみましょう。
1. 最新のツールや手法を知っている
- AI業界のニュースや研究成果は日進月歩
生成AIだけでも、チャット型、画像生成型、動画生成型、データ分析特化型…など、多彩なツールが毎日のように登場しています。外部コンサルタントは、そうした情報をキャッチアップする時間が“業務”の一部です。 - 横断的なベンダーやサービスの把握
あるサービスは自然言語に強いが、別のサービスは画像生成が得意…といった特性の違いを詳しく理解しているため、目的に応じて“今最適”なツールをすすめることができます。
2. 失敗事例も含めて学べる
- 成功事例だけでは見えない落とし穴
AI導入事例の紹介記事などでは、うまくいった部分ばかりが取り上げられがちです。でも、実際の導入ではサーバー負荷や品質のばらつき、セキュリティリスク、著作権の問題など、多くの課題にぶつかります。 - 他社の苦労や反省点をリアルに知っている
コンサルタントは複数のクライアントを支援しているので、「A社はここで引っかかった」「B社は導入プロセスのこの段階で大きな軋轢があった」など、いわば他社の“生の教訓”を共有できます。これにより、同じ失敗を繰り返すリスクを大幅に下げられます。
3. 短期集中で成果を出しやすい
- 期限を区切ったプロジェクトにしやすい
「1〜2ヶ月だけ来てもらう」「3ヶ月限定で具体的に導入支援を受ける」など、あらかじめ契約期間や予算を明確にしやすいのが特徴です。 - コスト対効果が計算しやすい
どうしても外部コンサルには費用がかかりますが、その分、ノウハウを一気に吸収して短期間で成果を可視化できれば、社内にとっては大きなリターンとなります。
4. 社内説得にも使える
- 「専門家がこう言っている」という説得力
経営層や上司に「AI導入したいんです」と言っても、なかなか踏み切ってもらえないことがありますが、そこに外部のプロが「現状と将来性」「費用対効果」を明確に示してくれれば、大きな後押しになるでしょう。 - 他部署への説明が簡略化できる
「このコンサルタントは○○社や△△社でAI導入を成功させている」と実績を説明すれば、同僚や他部門からの協力も得やすくなり、導入プロジェクトが社内政治の面でも進みやすくなります。
最初にやるべきは“業務プロセスの洗い出し”
コンサルタントが決まり、いざプロジェクトを始動するとなったら、まず取り組むべきは「業務プロセスの洗い出し」です。
ここでは、どんな観点で進めるのが効果的なのか、もう少し具体的に見ていきましょう。
どんなタスクが、どの部署で行われているのか
まずは「箇条書き」でも「フローチャート」でもいいので、組織内の主要業務を全部リストアップしてみてください。
現場にヒアリングをしながら、「実はA部署はこの書類作成に週10時間かかっている」「B部署は会議資料を作るために過去データを手作業でまとめている」など、定型業務や繰り返し作業がどこに潜んでいるかを把握していきます。
この作業だけでも、「こんなに無駄があったんだ」「何年も手作業でやってたんだ」という発見が少なくありません。
時間のかかる作業はどれか
続いて、それぞれの業務にかかる“おおよその時間”を算出してみることをオススメします。
たとえば、「レポート作成に3時間」「顧客へのメール返信で週に5時間」など。
あまりにも細かいと集計が大変なので、ざっくりとした目安でも構いません。
この時間を洗い出すと、どの業務が優先的にAI化の恩恵を受けやすいかが浮かび上がってきます。
単純作業や資料作成の多い業務ほど、生成AIが得意とする“文章要約”“コンテンツ生成”“翻訳”などの機能で大きな効果を発揮することが多いからです。
AIのインパクトを見極める
「この作業はAIに任せれば大幅な時短が見込める」「こっちの業務は専門知識が必要だからAIがどこまで対応できるかわからない」など、コンサルタントと一緒に選定していきましょう。
- 定型文が多い業務
生成AIにとって最もわかりやすい導入領域です。 - マニュアルやFAQが充実している業務
AIがその情報を“学習や理解”をすれば、問い合わせ対応などを自動化しやすいです。 - クリエイティブ要素がある程度決まっている仕事
商品説明文、SNS投稿の下書きなども試しやすいです。
このように、最初の段階から「どこに導入するか」「どの順番で取り組むか」を明確にしておくと、プロジェクト全体の見通しが立ち、社内への説明もしやすくなります。
コンサルタントの“やり方”を記録する
まかせきりではノウハウが残らない
コンサルタントに全面的に任せてしまうと、確かに短期間で成果を上げることはできるかもしれません。
しかし、プロジェクト終了後に「どうやって成果を出したんだろう?」という状態になってしまうと、社内には自走できるスキルが残らず、常に外部依存になってしまいます。
そこで、コンサルタントの思考過程や実際の操作風景を観察し、吸収することが必要です。
「AI導入に成功したけど、結局何をやったのかわからない」という状況を回避するためにも、社内担当者は必ずプロジェクトの中心に参加しましょう。
ミーティングで“画面共有”してもらう
コンサルタントは様々なツールやデータを使って検証を行いますが、その作業プロセスをリアルタイムで見せてもらうのは非常に勉強になります。
たとえば、週に1度の定例ミーティングで下記のようなことをしてもらうとよいでしょう。
- 実際に候補となっているAIツールにログインし、どんなプロンプトを入力しているかを実演してもらう
- 複数のツールを比較検証する際、評価基準をどう設定しているのか解説してもらう
- 「このプラグインとこのサービスを連携させると便利」など、ツール同士の組み合わせ技を実際の画面で示してもらう
こうした“画面共有”を通じて、「どうやって良し悪しを判断しているのか」「意外に細かい設定を変えるだけで結果が変わるんだ」といった“生の学び”が得られます。
議事録AIの内容を共有してもらう
さらに、社内で後から見返せるように、定例ミーティングの録画や議事録をきちんと残しておくのもおすすめです。あとで新たな担当者が加わったときに、「あのときコンサルタントがやっていた手順はこうだったんだな」とすぐに参照できます。
コンサルタントの操作風景をキャプチャ動画にして社内ポータルに置いておくと、社内ドキュメントの一部として価値が高まります。
外部委託の後にも、自走力を確保するための仕組みづくりが大切です。
生成AIコンサルタントは、クライアントが禁止している場合以外は、大抵の場合は議事録AIを使っているはずなのでそれを共有してもらいましょう。
1〜2ヶ月の短期集中プロジェクトがオススメ
短期間で一気にやるほうがよい
AI導入は、「長期的に見れば必要だけど、今すぐ大きなリソースを割けるかどうかわからない」という企業も多いでしょう。そういった場合、1〜2ヶ月程度に集中して外部コンサルを入れ、「とにかくスピード感を持って成果を出す」という方針が効果的です。理由としては以下が挙げられます。
- コスト管理がしやすい
「まずは2ヶ月分だけ予算を確保しよう」という形で、導入が始めやすい。 - やることが明確になりやすい
短い期間で結果を出すには、導入範囲や手順を絞り込み、優先度の高い業務から手をつける必要がある。 - 社内メンバーのモチベーションが持続しやすい
ダラダラ続くプロジェクトより、「2ヶ月後にはこれだけの成果が出るかもしれない」というほうがテンションが上がる。
“めちゃくちゃ速いスピード”で成果を出す
短期集中で進める最大のメリットは、社内に与えるインパクトが大きいことです。
たとえば、コンサルタントと協力して2〜3週間で業務フローを可視化・分析し、次の2〜3週間で実際のツール導入やPoCを回してしまう。
こうした超短期の中で、目に見える成果(問い合わせ対応が半分以下の時間になった、顧客向け資料作成が1/3の時間で済んだ)を社内に示せると、一気に注目度が高まります。
社内の人たちは、「え、そんな短期間で本当にAIがうまくいくの?」と最初は半信半疑かもしれません。
しかし、実際に成果が出れば、「こんなに早く改善できるなら、うちの部署でも試したい!」という声が自然に湧き上がってきます。これが良い連鎖です。
成果から広がる“次のステップ”へのつながり
短期間で成功事例ができると、それを横展開する形で次のステップに進みやすくなります。
具体的には以下です。
- スペシャリスト育成
導入プロジェクトに関わった数名が、次の「AI推進メンバー」として知見を蓄えられる - 全社研修
実際の成功ケースを教材として使えるので、研修内容が具体的になり、社員の興味も高まる - トップダウンの支援
経営層に数字や実例で報告できるため、追加予算やリソース配分の承認を得やすい
このように、短期集中プロジェクト→成功事例の創出→組織全体への波及という流れが生まれれば、AI導入が“部分的なPoC”で終わらず、本格的な全社DXのきっかけとなるでしょう。
外部コンサルタントの力を借りて、スピード感あるスタートを切ろう
以上が「ステップ1:外部コンサルタントにお手本を見せてもらう」の具体的なポイントです。
社内だけでなんとかしようとすると、生成AIの複雑さや進化の速さに苦労し、結局導入が進まないままタイミングを逸することも珍しくありません。
- 内部だけの解決には限界がある
生成AIは日進月歩。独学や有志メンバーだけでは追いつけない面が多い。 - コンサルタントを使えば、最新事例や失敗例から学べる
成功パターンだけでなく、他社の躓いたポイントを先取りして回避可能。 - 業務プロセスの洗い出しが最初の肝
どの業務をAI化するのが優先度高いか、どれだけの時間が削減できるか。 - コンサルタントの考え方や操作方法をしっかり観察し、社内にノウハウを残す
定例ミーティングや録画・議事録で、外部依存から脱却する仕組みを作る。 - 1〜2ヶ月の短期集中プロジェクトで“最初の成功体験”を得る
短期間で可視化できる成果ほど社内インパクトが大きく、その後の展開が一気に進む。
こうした流れを実践することで、スピード感あるスタートが切れます。
特に「いまから導入するとなると遅れているかも…」と感じている企業こそ、外部の専門家を短期集中で活用して、AI導入の難所を一気に突破してみてください。
その成功体験こそが、次に続く「社内スペシャリスト育成」「全社研修」「ノンプロンプト化」の大きな足がかりとなるはずです。
第2章:ステップ2 —— 社内に3名のスペシャリストを育成する
なぜ3名なのか?
少人数でも複数人が「わかる人」である必要性
生成AIは、日々進化するテクノロジーです。新しいツールや手法、事例が次々と出てくるため、常に情報を追いかけ、業務に当てはめる知識とスキルを更新していく必要があります。
そうした役割を担う人が社内に1人だけだと、もしその人が部署異動になったり、退職したり、体調不良で長期休暇をとったりすると、途端にプロジェクトがストップしてしまうリスクが高いのです。
一方、あまりにも大人数で取り組むと、連携やスキルレベルのバラつきが生まれ、教育コストや調整コストが高騰します。そこで3名という人数は、組織規模によっては少ないように見えて、実は大きなメリットがあります。
- 最低限のリスクヘッジ
1人だけに集中しないため、急な離脱があっても残りのメンバーでフォローできる。 - 情報共有がスムーズ
2人だと一方的になりがちですが、3人なら互いの得意分野・苦手分野をカバーし合える。 - コミュニケーションの活性化
3人いれば自然と意見交換やディスカッションが盛んになるため、学習が加速する。
適度な緊張感と刺激
さらに、3人という人数は適度な競争心を生み出すのにも都合がいいです。
例えば、Aさんが「新しい海外ツールを試してみたら上手くいった」という報告をすると、BさんとCさんも「それ、私も試してみよう」と意欲をかき立てられるでしょう。
もしこれが1人だけだと「まぁいつかやろう」で止まってしまいがちですし、5人以上だと情報交換が面倒になって、結局誰がどこまで進んでいるのか把握しにくくなります。
得意分野の違いを活かせる
3名いれば、ITやプログラミングが得意な人、英語のサイトや論文を読むのが苦にならない人、業務プロセスや社内調整が得意な人といった役割分担が生まれやすいのも利点です。
たとえば、ツールのインストールや設定周りはAさんが先導し、新ツールの海外ドキュメントを読むのはBさんが担当、導入計画や業務ヒアリングはCさんがやる、といった具合にそれぞれの強みを発揮できます。
スペシャリストに必要な条件
では、具体的にどういった条件を満たす人が、生成AIスペシャリスト候補として適しているのか。
以下で挙げられる4つのポイントを、より踏み込んだ形で説明します。
1. 新しいツールに抵抗がない
- ダウンロードやサインアップを苦と思わない
生成AI関連のツールやサービスは、新しいプラグインをインストールしたり、海外サイトでメールアドレス登録するなど、小まめな操作が頻繁に発生します。そこに「なんだか面倒くさい」と抵抗感を持つ人だと、試す前に腰が重くなってしまいがちです。 - 未知のツールにも柔軟に慣れていける
AIツールは、いわゆるクラウドサービス型であっても、ベータ版の段階ではUIがこなれていなかったり英語表記だったりします。それを「むしろ面白い」と思える人が向いています。
2. タイピングや基本操作に慣れている
- AIへの指示は“テキスト入力”が基本
生成AIを活用するには、プロンプトを書いたり、文章を入力してAIに処理を行ってもらう流れが中心になります。そのため、最低限のブラインドタッチやスムーズな文字入力能力がないと、作業がストレスフルになりがちです。 - Officeソフトや一般的なPC操作ができるかどうか
AIツール以外にも、ExcelやGoogleスプレッドシートでデータを整理したり、社内システムと連携させるケースもあります。基本的なPCスキルがあると、導入時に混乱せずに済みます。
3. 英語の情報を翻訳しながらでも読もうとする意欲
- 最新の論文やツールは英語主体
大手海外ベンダーやオープンソースのコミュニティでは、英語で情報が発信されることが多いです。AIの重要アップデートや学会発表も英語が中心です。 - 翻訳ツールで十分だが、抵抗感がないことが大事
完璧な英語力が必須ではありませんが、「英語のサイトを見ただけで尻込みしてしまう」というタイプだと、情報源が限られてしまいます。翻訳ツールで補いながらでも、前向きに読み解こうとする姿勢が重要です。DeepLというツールがおすすめです。
4. 試行錯誤を面白がれる
- AI導入には“失敗”がつきもの
新しいツールを試したらクラッシュした、想定外の結果が出てしまった、使い方がわからない。こうした出来事は日常茶飯事です。 - 失敗から学ぶ姿勢が必要
「このプロンプトではうまく動かなかった。じゃあプロンプトの順番を変えてみよう」といった微調整を繰り返し、“AIとの対話スキル”を育てる必要があります。これをストレスと感じる人より、「ゲーム感覚で楽しめる」タイプの人のほうが大成しやすいです。
そして、年齢や職位は関係ない
上記の条件は、「若手社員しか当てはまらないのでは?」と思われるかもしれませんが、実際にはベテランの人でも積極的に学べるタイプならハマるケースは多々あります。
むしろ、業務内容を深く理解しているベテラン社員が、英語やITに抵抗なく挑戦できるなら、スムーズに社内への導入を推進できるでしょう。
大事なのは「新しいことを試す好奇心があるかどうか」。年齢や社歴に関係なく、“好奇心旺盛な人”をピックアップするのが鍵です。
毎日60分の“調査タイム”を設定しよう
継続的な学習が不可欠
生成AIは静的なソフトウェア導入と違い、アップデートが非常に速いのが特徴です。
1ヶ月前の情報が、すでに古くなっていることも珍しくありません。
そのため、一度研修を受けただけで満足するのではなく、日々の学習と調査が何より重要です。
そこで最も効果的なのが、「毎日1時間は生成AI関連の調査や実験を行う」という時間枠を、あらかじめ業務に組み込んでしまうことです。
これを“生成AI調査タイム”や“生成AI会”などと呼び、社内にも周知します。
コーレでは毎日9:30~10:30で生成AI朝会を行なっています。
具体的な“調査タイム”の内容
- 新しいAIツールを試してみる
「最近リリースされた画像生成AIがあるらしい」「海外ベンチャーが出した文書要約ツールが評価高いらしい」などの話を聞いたら、まずは触ってみる。 - 既存ツールのアップデート内容を検証する
すでに使っているサービスに新機能が追加された場合、どのように使い勝手が変わるかをチェック。 - 海外の掲示板やSNSで事例を探す
X(Twitter)やAIメディアなどで「AI活用事例」と検索し、面白そうな実例があればメモしましょう。翻訳ツールを使ってでも情報を仕入れましょう。 - 社内業務と紐づけるアイデアを考える
「このツールなら営業資料の自動生成に使えるかも」「文章生成機能で、企画作りを短縮できそう」など、具体的にどこで使えそうかを検討。 - 他部門とコミュニケーション
「こういう仕組みがあると経理部門は助かりますか?」など、実際に業務フローを握っている部署に意見を聞き、AI導入へのヒントをもらいましょう。
情報収集ツール:コーレックスくん
情報収集といっても、「毎日新しいネタがあるの?」と思われるかもしれません。でも、大丈夫です。
生成AIの新しい情報は毎日尽きることがありません。
コーレでは独自の自動情報収集ツールとして、Xでの生成AI情報収集AIのアカウント「コーレックスくん」があります。
毎日30分おきに新しい生成AIニュースをネット上から収集してきて、要約して、専門家の視点で一言評論をして、Xに投稿するまでを、AIで自動化している、AIでAI情報収集をするアカウントです。
よろしければご参考ください。
“余裕があれば”ではなく“必須の業務時間”にする
この調査タイムを「手が空いたらやる」のスタンスにすると、忙しい時期はほとんど取り組まれないまま流れてしまう可能性が大です。
そこで、上長や管理職が明確に「AI調査タイムは仕事の一環です」と認めることが大切です。
たとえば、午前9時から10時までは調査タイムに充てると決める、または午後4時から5時の1時間を固定するなど、社内で周知しておけば「本当にそんな時間取っていいの?」という疑問を持たれにくくなります。
DX推進の投資として理解を得る
なぜこんなに“調査タイム”が大切なのかというと、社内DXを進めるにあたり、「最新技術を常にキャッチアップして、自分たちの業務にどう活かせるかを考える文化」を育てるからです。
表面的にAIを導入しても、誰も学ばずに放置すれば効果は出ません。
最初は周囲から「毎日1時間も費やすなんて贅沢じゃないか」と言われるかもしれませんが、そこで得た知見や改善提案が、膨大な工数削減や新規顧客開拓につながる可能性は十分にあります。
長い目で見ると、非常に高い投資対効果を発揮するわけです。
1〜2ヶ月でも大きく成長できる
“毎日1時間”の積み重ねは想像以上
毎日1時間を1ヶ月続ければ、単純計算で20〜30時間、2ヶ月なら40〜60時間にもなります。
これは、趣味や独学の延長で得られる学習時間としてはかなり多く、専門学校の授業時間にも匹敵するレベルです。
実際、30〜60時間も本気で生成AIに向き合えば、主要なAIツールのインターフェイスや基本的なプロンプト作成、成果物の検証のしかたなどは一通り身につきます。
さらにこの期間中、日々の業務でAIを試してみる機会があれば、実践的なスキルがどんどん蓄積されていくでしょう。
ツール操作感とプロンプトのコツを掴む
スペシャリスト候補たちにとって、この1〜2ヶ月はツール操作感とプロンプトのコツを掴むための“密度の高い学習期”となります。
- 「文章要約をさせるときは、事前にトーンやフォーマットを指定すると精度が上がる」
- 「データの分析をAIに任せる場合、事前にカテゴリ分けしておくと結果がうまく出てくる」
- 「英語ベースのツールだと、日本語を扱うときに微妙なニュアンスが消えるから補足説明が必要」
こうした暗黙知を日々の実験で蓄積し、それを3名のメンバー間で共有できることは、後々組織全体に展開する際の大きなアドバンテージになります。
自然に“社内のどの業務がAI化に適しているか”を考えられる
学習と試行錯誤を重ねていると、「この作業ならAIで置き換えられそう」「あの部署のマニュアル作成はAIに任せれば効率が上がりそう」という発想が自然と湧いてきます。
スペシャリスト候補たちは、職場のいたるところで「AIでできる余地」を見つけ出すアンテナが育ち始めるのです。
その結果、次のステップである“全社研修”や“ノンプロンプト化”に向けて、講師やサポーターとして活動しやすくなります。
実際に自分でやってみて成功・失敗を経験したからこそ、周囲にも「こうやると上手くいく」「ここは注意したほうがいい」と説得力あるアドバイスを提供できるわけです。
成長した姿が次の研修やプロジェクトの中心に
1〜2ヶ月をかけて学んだスペシャリスト候補たちは、やがて全社的なAI研修やより大規模なDXプロジェクトを牽引する存在へとステップアップすることが期待されます。
たとえば、「ある部署でAIを導入してみたい」と相談があれば、スペシャリスト候補が手順を教えたり、その部署独自の要件をヒアリングしてツール連携をサポートしたりできます。
こうした姿勢は、組織内のAIに対する信用度を高め、「うちの会社もAIを活かせるじゃないか」というポジティブな空気を醸成します。
最初は手探りだったスペシャリスト候補たちが、わずか1〜2ヶ月で頼れる存在に変わるというのは、企業の成長ストーリーとしても非常に印象的になります。
3名のスペシャリストで、“組織のAI推進”を一気に加速させる
以上、「ステップ2:社内に3名のスペシャリストを育成する」のポイントを、より具体的に整理してみました。
- なぜ3名なのか
1人だとリスクが高く、5人以上だと教育管理が大変。3名なら、お互いを補完し合い、得意分野を活かせる最適バランス。 - スペシャリストに必要な条件
・新しいツールに抵抗がない
・タイピングや基本PCスキルがある
・英語への抵抗が少ない
・試行錯誤を面白がれる
・年齢や職位は関係なく、好奇心がある人がベスト - 毎日60分の“調査タイム”を設定
・継続的な情報収集とツール試用を業務時間として確保する
・社内の業務課題との結びつきを常に考える
・他部門とのコミュニケーションでニーズや課題を拾う - 1〜2ヶ月でも大きく成長できる
毎日1時間の調査を1ヶ月続けるだけで20〜30時間、2ヶ月なら40〜60時間の学習量を確保
・ツール操作感やプロンプトのコツを習得し、自然と業務への適用案が浮かぶ
・成長した姿が、次の全社研修やAIプロジェクトの中心的な役割を担える
このステップ2をしっかり踏むだけでも、組織の中に“AIを使いこなす人材”という強固な核が生まれます。
第1章で触れた外部コンサルタントが退いた後でも、3名のメンバーが社内のAI推進をリードし、自分たちの言葉で周囲を巻き込める状態になるのです。
次のステップでは、こうして育成されたスペシャリストたちが中心となって“全社的なAI研修”を進めていくことになります。
そこでいよいよ組織全体がAIを意識し始め、大きな変革が起きるきっかけが生まれるでしょう。
ぜひこのスペシャリスト育成ステップを丁寧に実行し、組織にとって最適なメンバーを輩出してみてください。
第3章:ステップ3 —— 組織全体に生成AI研修を実施する
全社研修の必要性
スペシャリストだけでは足りない理由
前章(ステップ2)で3名のスペシャリストを育成したとしても、残りの社員がAI導入に対して「よくわからない」「必要性を感じない」という状態では、大きな効果は生まれにくいのが実情です。
とりわけ、多くの企業では現場レベルのスタッフが日々の事務作業や文書作成などの業務を担っており、彼ら彼女らの仕事の進め方が変わらない限り、AI導入の恩恵も限定的になってしまいます。
- 例1:営業資料を作る担当者が「AIなんて難しそう…」と敬遠すれば、結局手作業で時間がかかり続ける。
- 例2:経理や総務部門が「セキュリティが心配」「今のままで十分」と消極的だと、AI化できるルーティン作業が導入されない。
こういった現場がAI導入に前向きにならなければ、組織全体の生産性は飛躍的に伸びません。
そこで全社研修(または部署ごとの大規模研修)を行い、「AIに触れてみる」「実際にAIが動くところを見て感動する」という体験を、できるだけ多くの社員と共有することが非常に重要になります。
「触ってみる」ことで生まれる意識変革
人間は座学でいくら理論を聞いても、なかなか「やってみよう」という気持ちにはなりにくいものです。
でも、実際に自分のパソコンでAIを操作してみて、「こんなに簡単に文章を要約してくれるんだ」とか「ちょっと指示を変えただけで、すぐに結果が返ってくる!」と体感すると、一気に意識が変わります。
- イメージの変化
- Before:「AIってなんか難しそう…エンジニアしか扱えないのでは?」
- After:「思ったよりシンプル!自分にもできそう!」
この変化は、組織がAI活用を本格化するうえで不可欠なステップです。
そこで、全社研修を通じて、できるだけ多くの社員に“AIは身近なもの”だと感じてもらうことが大切になります。
全社研修か、部署別研修か
企業の規模や構造によっては、いきなり全社員を対象に研修するのが難しい場合もあります。
そんなときは、部署単位で研修を行うのも1つの手です。
とくに大規模企業の場合、「営業部門向け」「開発部門向け」「バックオフィス向け」などの形で研修を分ければ、それぞれの業務に合った内容を用意できるため、導入効果が上がりやすいでしょう。
コーレでは「AI駆動ワーク研修 職種別パッケージ」というように職種ごとの研修内容をつくって提供しています。
- 全社研修:一斉に開催することで、組織全体のテンションを高めやすい。
- 部署別研修:各部署の業務内容に特化した応用事例を紹介しやすい。
どちらが正解かは企業ごとに異なりますが、いずれにしても「AIに触れてみる」「AIを動かしてみる」機会をできるだけ幅広く提供することが鍵です。
ハンズオン形式で“実際に触ってもらう”
座学中心の研修が失敗しがちな理由
多くの企業では、研修と聞くと「パワーポイントで理論や基礎知識を説明する」イメージを持つかもしれません。
しかし生成AIの研修でありがちな失敗例は、「AIの理論的な背景やアルゴリズムの話を延々と説明して終わる」というもの。
これだけでは、参加者は「なんか難しそうだな…」と感じるだけで、実際に業務に取り入れるまでの行動には結びつきにくいのです。
- 理論を理解しても使わない
「AIの技術的な歴史や仕組みはわかったけど、じゃあ私の担当業務で具体的にどう使えばいいの?」となる。 - 操作イメージがわかない
スライドを見ただけでは、「ログインしてどのボタンを押せばいいのか?」がまったくわからない場合も多い。
なので、座学中心だと時間だけ消費してしまって、いざ業務につなげようとしても繋がらないことが多くあります。
ワークショップ形式が効果的な理由
生成AIを社内に根付かせるには、「触ってみる」ことが何より大切です。
だからこそ、ハンズオン形式での研修がオススメです。
具体的には、以下のようなワークショップです。
- 各自の端末でAIツールにログイン
事前にアカウント登録の方法を共有し、研修時に実際にサインインする。 - テンプレート化したプロンプトを用意
例:「これを要約してください」「この文章を300文字以内で書き直してください」など、簡単な指示例を数種類渡す。 - 実際に操作してみる
「文章をコピペして要約させてみる」「メール文面を生成させてみる」「外国語の文章を日本語に翻訳してみる」など。 - 成果を見せ合い、驚きを共有
「こんなに短い時間でレポートができちゃったんだ」「こんな面白い文章に変換された」など、参加者同士で感想をシェア。
こうすることで、理論を知らなくても「使える」「役立つ」という実感が得られます。
これこそが「AIって思ったより身近だな」という気付きにつながり、その後の活用意欲を高めてくれます。
具体的なハンズオン例
- 事務担当向け
「書類の文章をAIに要約させ、マインドマップにしてもらう」
「定型文メールを生成AIに書かせてみる」 - 営業担当向け
「顧客への提案書を下書きしてもらい、要点を追加・修正する」
「競合企業の情報を英語サイトから拾って、自動翻訳&要約」 - 開発・技術部門向け
「エラーメッセージやログをAIに分析させて、解決策をヒントとして出させる」
「海外のGitHubリポジトリをAIに読ませて日本語で要約させる」
こうした具体的なワークショップを行えば、「実は自分たちの仕事がこんなに楽になるんだ」と参加者が体感し、楽しみながら身につけられるでしょう。
研修後のフォローアップ
研修で使っただけでは終わらない
AIツールを一度触っただけで「すっかり使いこなせるようになるか」というと、やはりそうではありません。
研修中は「すごい!こんなこともできるんだ」と思っても、現場に戻って日常業務を始めると、次のような疑問が湧き出てきます。
- 「もう一度使おうと思ったら、使い方を忘れた…」
- 「文章を書こうとしたけど、どうやってプロンプトを書けばいいか思い出せない」
- 「機密情報を入力しても大丈夫なのか、正式なガイドラインってどうなってる?」
こうした現場でのリアルな困りごとを解消しなければ、結局また人力に戻ってしまい、AIが広まらないままに終わってしまいがちです。
“質問窓口”の設置
そこで効果的なのが、社内チャットツールやFAQサイトに「生成AI質問チャンネル」を作るというフォローアップの仕組みです。具体的には以下のように運用します。
- 研修終了時に案内
「今日から1週間、1ヶ月と、どんなタイミングでも困ったらここに質問を投稿してください」と参加者に伝える。 - スペシャリストやコンサルタントが回答
質問がきたら、スペシャリストや外部コンサルタントが迅速に回答し、なるべく具体的なアドバイスを提供する。 - FAQの蓄積
質問と回答が溜まれば、そのまま社内ナレッジとして活用可能。新人や未受講者も読み返して学習できる。
これにより、「ちょっとした疑問」を抱えたまま放置せずに済み、社員一人ひとりが次第にスキルを上げていけるわけです。
定期フォローアップセッションも有効
場合によっては、研修後1週間や1ヶ月後にフォローアップセッションを行うのもおすすめです。
- 「実際にAIを業務で使ってみたが、どうだったか?」
- 「上手くいった点と、つまずいた点は?」
- 「最近出た新機能を試してみませんか?」
こうした情報交換の場を設ければ、研修直後の熱量を維持しながら、継続的な学習が促進されます。
また、スペシャリストが「ここまで使いこなせるとめちゃくちゃ便利」という上級テクニックを共有するなど、応用ステップへ進むためのモチベーションを高められます。
全員強制と自由参加のバランス
全員強制vs自由参加のジレンマ
AI研修を進めるとき、「全社員を必須で受講させるべきか、それとも希望者だけに限定するか」という悩みが出てきます。どちらにも一長一短があります。
- 全員強制
メリット:社員全体のAIリテラシー底上げが図れる。最低限の知識や操作方法が共有される。
デメリット:モチベーションが低い人には苦痛。忙しい人が「他の業務のほうが重要」と不満を持つ可能性。 - 自由参加
メリット:参加する人は興味があって前向きなので、学習効果が高い。講師もやりやすい。
デメリット:忙しい部門は後回しになりがち。結局、組織全体での導入スピードは遅くなる。
基礎研修と応用研修に分けるアプローチ
そこでオススメなのが、「全員必須」の基礎研修と「希望者向け」の応用研修を分割して実施する方法です。
- 基礎研修(必須、1〜2時間程度)
- 対象:全社員
- 内容:AIの基本操作、ログイン方法、注意事項(セキュリティ、著作権など)、簡単なハンズオン
- ゴール:最低限のリテラシーと操作感を全員が把握する
- 応用研修(希望者、数時間〜数日)
- 対象:より積極的に活用したい人、専門分野でAIを使いこなしたい人
- 内容:高度なプロンプト作成術、業務フローへの具体的な組み込み方、連携ツールの選定、ケーススタディなど
- ゴール:社内でのAIエキスパートや推進役を増やす
このように2段階に分けることで、最低限の知識は全員が得られつつ、本気でAIを使いたい層がさらに深いスキルを身につける場も確保できます。
忙しい部署も「基礎研修だけは受ける」という形で参加しやすいです。
スペシャリストが講師やサポーターに
ここで、前章で育成された3名のスペシャリストが大いに役立ちます。
基礎研修では、スペシャリストがハンズオン指導や質問対応をサポートし、さらに応用研修ではメイン講師役を務めてもらうなど、社内の人員だけでも回せるようになるのです。
外部コンサルタントがいる場合も、スペシャリストと協力してプログラムを組み立てれば、より質の高い研修が期待できます。
全社的なAI研修で“触れる機会”と“継続サポート”を整備
以上が「ステップ3:組織全体に生成AI研修を実施する」の具体的なポイントです。
まとめると、以下のようになります。
- 全社研修の必要性
スペシャリストだけでは不十分。現場スタッフがAIに前向きにならないと大きな効果は出ない。
まずは「AIに触れてみる」「体感する」ことで意識を変えることが重要。 - ハンズオン形式で実際に触ってもらう
座学だけだと行動に移りにくい。各自が端末でログインして操作するワークショップが効果的。
具体例としては、文章要約、メール生成、翻訳、レポート作成などを試す。 - 研修後のフォローアップ
研修1回では操作や応用法を完全に習得できない。
社内チャットの「質問チャンネル」やFAQ整備、定期的なフォローセッションで疑問を解消。 - 強制研修と希望研修のバランス
「全員必須の基礎研修」と「希望者向けの応用研修」の二段構えがオススメ。
全社員のリテラシーを上げつつ、より深い学習を望む層に余地を提供する。
こうして研修を通じて得られる「AIって思ったより使いやすいんだ」「これなら自分の仕事にも応用できそう」という感覚こそが、その後の組織全体への広がりを支える“土台”になります。
ぜひ、スペシャリストが中心となって研修を計画し、実際にハンズオンを交えながら“AI体験”を広く浸透させてみてください。
すると、社員一人ひとりがAIを“当たり前”に使うカルチャーが少しずつ育ち、業務効率化や新たなアイデア創出などの成果につながっていくはずです。
第4章:ステップ4 —— ノンプロンプトで使いこなせる仕組みを導入する
“プロンプト”を書くのは意外と難しい
プロンプトによって結果が変わる
生成AIの世界では、入力するプロンプトが結果の良し悪しを大きく左右します。
たとえば、同じ文章を要約させるにしても、「短めにまとめてください」なのか、「3点に分けて箇条書きでまとめてください」なのかで、AIが出すアウトプットはまったく異なるでしょう。
また、「ビジネス文書風に」や「カジュアルに」などのトーン指定も、完成イメージを大きく変えます。
- 具体例:
- プロンプトA:「以下の文章を要約してください。」
- プロンプトB:「以下の文章を、3つのポイントを箇条書きにして、150文字以内で要約してください。ビジネス文書として読みやすい文体でお願いします。」
- → プロンプトBのほうが、より的確で使いやすい出力を得られる可能性が高いです。
多くの人が苦手とする理由
しかし、実際にこのような“プロンプトを書く”作業は、多くの人にとって慣れないものです。
なぜなら、ロジカルな文章を作るスキルや、必要な指示を網羅的に考える習慣が求められるからです。
- 文章構成力のハードル
「どこから説明し始めて、どのような条件を段階的に書けばいいのか?」という組み立てが難しい。 - 必要事項の抜け漏れ
「文字数の指定」「フォーマットの指定」「トーンの指定」など、何をAIに指示すればいいかがわからないまま書き始めてしまう。 - 抽象と具体のコントロール
「要約して」とざっくり指示すると、AIがどう要約するのか分からない。かといって細かすぎる指定を書くと、逆に書く側が疲れてしまう。
「自分で書いたほうが早い」と思ってしまう悪循環
このようにプロンプト作成が難しいため、せっかくAIを導入しても「意外と結果が微妙だから、もう自力でやったほうが早い」と感じる社員が出てきます。
特に忙しい現場では、「指示文を考えて入力するより、自分で文章をまとめたほうが手っ取り早い」と結論づけられてしまうわけです。
これはAI導入が停滞する一因でもあり、「プロンプトって面倒だな…」というイメージだけが先行してしまいます。
プロンプトスキルを広める?書かなくてもいい仕組みにする?
この問題を解決するには、大きく2つのアプローチがあります。
- プロンプトスキルを全社員に学んでもらう
研修などで「どう指示をすれば、思った通りの成果物を得られるか」を徹底的に教える。
時間とコストはかかるが、習得すれば柔軟な運用ができる。 - “ノンプロンプト化”して、書かなくても使える状態を整える
ユーザーが明示的にプロンプトを入力しなくても、裏側で最適なプロンプトが動く仕組みを用意する。多くの社員が抵抗なくAIを使えるようになり、導入が加速しやすい。
この章で紹介する“ノンプロンプト化”は、後者のアプローチです。特に「できるだけ多くの社員にAIを使ってもらいたい」という組織にとっては、非常に有効な方法と言えます。
前者のプロンプトスキルを全社員に学んでもらうは、どうしても個人差が大きく出てくるため、安定的な業務プロセスへの導入は難しくなってきます。
ノンプロンプト化とは?
ノンプロンプト化の基本概念
“ノンプロンプト化”とは、生成AIに対するプロンプトをユーザー自身が毎回書かずとも、システム側であらかじめ用意しておくことを指します。
すなわち、ユーザーがボタンを押したりファイルをアップロードしたりするだけで、裏で最適なプロンプトが自動的に生成され、AIが結果を返してくれる仕組みです。
- 例
- 社内ポータルサイトに「要約する」ボタンを作る。社員はそこにファイルをドラッグ&ドロップするだけ。実際には裏側で「○○文字以内で、読みやすい箇条書き形式に要約して」というプロンプトがAIに送られる。
- チャット画面に「メール文面を作る」「議事録を作る」などのプリセットボタンを用意し、押すと裏でプロンプトが自動的に構築されてAIに送信される。
ユーザーが意識しなくていい仕組み
このノンプロンプト化の最大の利点は、ユーザーがプロンプトを意識しなくていいという点です。
エンドユーザーは「要約ボタンを押すだけ」「フォームに必要事項を入力するだけ」で結果が得られるので、「どんな文章指示が必要か」「構文はどう書くべきか」といった難しいことを考えずに済みます。
- 例
- ユーザー:営業スタッフ
- 操作:営業報告のドラフト文書をAIに校正させたい
- 従来なら:「この文書を敬語で整え、300文字程度にまとめてください。語尾は〇〇に統一し、箇条書きを挟んで…」など、プロンプトを自作。
- ノンプロンプト化後:「“営業報告を整える”ボタンを押して、文書を貼り付ける」→ システムが自動でプロンプト生成 → AIが校正・整形した文章を返す。
具体的なノンプロンプト化の例
- 社内ポータルのボタン化
画面上に「文書要約」「メール返信文作成」「契約書リーガルチェック」などのボタンが並んでおり、ユーザーはクリックしてテキストを入力またはファイルをアップロードするだけ。
裏では各ボタンに対して予め設定したプロンプト(例:「150文字以内」「敬体で」「箇条書き」など)をAIへ送信する。 - チャットUIにプリセットを用意
社内チャットツール上で「/ai要約」「/ai翻訳」といったコマンドを打つか、ボタンを押すと、そのコマンドに紐づけたプロンプトが自動的に実行される。
ユーザーが細かい文章を考えずに済むので、普段のチャット操作感でAIを使い始められる。 - フォームベースの設定
「新入社員向け研修資料作成」のようなフォームを作り、「資料の目的」「要点」「対象レベル」をユーザーに選択式で入力してもらう。
システム側がそれらの選択結果をもとにプロンプトを組み立て、「適切な文体・構成・分量で資料案を作る」ようにAIに指示する。
ノンプロンプト化が有効な理由
- 導入ハードルの劇的な低減
プロンプト作成スキルが不要なので、全社員がストレスなく使い始められる。 - 業務効率の飛躍的向上
ボタンを押すだけで成果物が出てくるため、忙しい現場スタッフほど恩恵を感じやすい。 - 使用データの統制が取りやすい
プロンプトを裏で固定化することで、「社外秘情報を意図せずAIに入力してしまう」リスクを減らす工夫もしやすい。 - 組織全体での標準化
「全社的にこれを使えば、文章要約は常に同じフォーマットで返ってくる」というように、品質を一定水準に保てる。
ノンプロンプト化を実現するまでのステップ
ここで少し踏み込んで、「ノンプロンプト化を導入するにはどんな流れが必要か」を整理しておきます。
1. 業務プロセスの洗い出しと要求整理
- どの業務をAI化したいのか、どの部分にプロンプトが必要なのかを明確にする。
- たとえば「会議議事録の自動作成」「契約書レビュー」「メール文面の自動生成」など、業務ごとにユースケースを定義。
2. 必要なプロンプトを設計
- ユースケースごとに「どんな要件」をAIに指示するかを細かく洗い出す。
文章量、文体、出力形式(箇条書きか、段落形式か)、専門用語の扱いなど。 - 出来上がったプロンプトをテンプレート化し、裏側で動く“プロンプト辞書”を作成する。
3. UI設計
- ボタンやフォーム、チャットコマンドなど、ユーザーが操作しやすいUIを作る。
- 可能であれば最初にPoC(概念実証)として簡易版を実装し、現場からフィードバックを集める。
4. セキュリティ・ガイドライン整備
- 社内の機密情報や個人情報を扱う場合、外部クラウドのAIに送って問題ないのかなど詳細を確認。
- 必要に応じてデータをマスキングしたり、オンプレミス型のAI環境を導入したりする検討もありです。
5. 検証と改善の繰り返し
- 実際にユーザーが使ってみて、結果が期待通りに出なかった場合、テンプレート化されたプロンプトを改良する。
- UIが使いにくいという声があれば、ボタン配置や説明文を見直すなど、運用を回しながら継続的に改善していく。
ノンプロンプト化で組織に根付く“AI文化”
“AIは当たり前”のカルチャーへ
ノンプロンプト化が進むと、ユーザーは「裏でAIがどんなプロンプトを使っているのか」を意識せずに成果物を得られるようになります。
つまり、AIを使っている感覚がなくなるわけです。
たとえば、書類やメール文面を「作ってくれるボタン」があるのが当たり前のように思えるようになり、社員の業務の一部として自然に溶け込みます。
- 例
- Before:「AIで文章を要約しよう…まずプロンプトを考えなきゃ…」
- After(ノンプロンプト化後):「要約ボタンを押すだけ。勝手にやってくれる。」
この状態になれば、現場のスタッフの間でもAI利用が日常化し、AIを活かした新しいアイデアや応用が次々と生まれやすくなります。
業務標準化とノウハウ蓄積
ノンプロンプト化に取り組む過程では、組織として「どんな書類にどんな文体がふさわしいか」「報告書の最適なフォーマットは?」などをあらためて考える必要が出てきます。
これは結果として、業務の標準化やノウハウの整理を促すきっかけにもなります。
- 例
- 「契約書の確認ポイントはここだ」というプロンプトを事前に仕込むことで、誰が確認しても一定のクオリティでレビューできるようになる。
- 「営業メールには、こういう要素を必ず入れて書く」というテンプレが生まれ、社内全体のメール品質が向上する。
「プロンプトを書ける人」との共存
もちろん、ノンプロンプト化が進んでも「自分でプロンプトを書いて高度な活用をしたい!」という人は存在します。
むしろ、社内にプロンプトスキルを持つスペシャリストがいることは大きな強みです。
彼らがノンプロンプト化の仕組みを設計・メンテナンスし、一般ユーザーは気軽に使う——という形で、お互いに補完し合うのが理想的でしょう。
ノンプロンプト化で“プロンプトの壁”を乗り越える
以上が「ステップ4:ノンプロンプトで使いこなせる仕組みを導入する」の概要と、その具体的な手順です。
改めて要点をまとめると、以下のようになります。
- プロンプトは意外と難しい
- 指示内容や文章構成力が求められ、慣れていない人には敷居が高い。
- 結果的に「AI使わなくても自分でやったほうが早い」という空気が生まれがち。
- ノンプロンプト化の考え方
- ユーザーがプロンプトを書かなくても、あらかじめ仕込んでおいたプロンプトをシステムが自動生成し、AIに送信する仕組み。
- 社内ポータルやチャットUIに「要約ボタン」「翻訳ボタン」などを設置し、クリックだけで作業が完了する。
- ノンプロンプト化のメリット
- 多くの社員が抵抗なくAIを導入でき、業務効率を大幅に高められる。
- プロンプトのバラつきが減り、組織として一定品質のアウトプットを得やすい。
- 裏でどんな指示が走っているかを一元管理できるため、セキュリティやガイドラインの管理もしやすい。
- 実装のステップ
- 業務プロセスや要件定義 → テンプレート化したプロンプトを設計 → ユーザーインターフェイス作成 → セキュリティ対策 → 検証と改善の繰り返し
- AI文化の定着
- ノンプロンプト化により、社員が“AIを使っている”という感覚を意識しなくなり、“AIはあって当然”というカルチャーが育つ。
- 業務標準化やノウハウの蓄積も進み、会社全体の生産性や品質が底上げされる。
ノンプロンプト化を実現すれば、「プロンプトを書くのが面倒」「使いこなすのが難しそう」というハードルを取り除き、社員の誰もがAI活用の恩恵を享受できるようになります。
これこそが、組織レベルで“生成AIを当たり前に使いこなす”体制を整える最終ステップといえるでしょう。
ぜひ、この仕組みづくりを通して、組織のDXをさらに加速させてみてください。
第4章+:ノンプロンプトAIツール開発の要求整理フェーズ
要求整理が重要な理由
ノンプロンプト型AIツールでは、ユーザーがプロンプトを書く必要がなくなる代わりに、裏側で最適なプロンプトを自動生成する仕組みを準備する必要があります。そのため、実際の開発に入る前段階で、
- どんな業務を対象にするのか
- どのようなAI機能が必要か
- どのレベルのアウトプットを求めるのか
- ユーザーはどの操作までを許容し、どこをシステムに任せたいのか
といった要件をきちんと整理しておくことが不可欠です。
ここでのブレや漏れが後に発覚すると、システムを作り直すコストが大きくなったり、現場が結局使いにくいツールになってしまうリスクが高まります。
対象業務と優先順位の明確化
どの業務をAI化したいか
まず最初に、社内で「どの業務をノンプロンプト化して効率化したいのか」を洗い出します。
具体的には、以下のようなリストを作るところから始めましょう。
- 例
- クリエイティブの自動作成
- 文書の自動校正・リライト
- 翻訳(英文メール・資料など)
- 定型レポートの自動生成(週報・月報など)
- 書類レビュー(チェックすべきポイントを列挙)
- 対応の半自動化(FAQ生成など)
この段階ではなるべく多くの候補を出し、可能なら関係部署にもヒアリングして「実際に困っている部分」を吸い上げるとよいでしょう。
インパクトと実現可能性の評価
洗い出した候補業務の中で、すべてを一度にノンプロンプト化するのは現実的ではありません。
そこで、インパクト(どれだけ時間やコストを削減できるか)と実現可能性(技術的難易度や導入ハードル)を軸に評価し、優先順位をつけます。たとえば、以下のようなマトリクスを作ると判断しやすいです。
低難易度・低コスト | 高難易度・高コスト | |
---|---|---|
効果が高い | 最優先 (A) | 検討対象 (B) |
効果が低い | 実装後回し (C) | 実装除外 (D) |
- A(最優先):短期間で効果が出そうなので、まず取り組む
- B(検討対象):実現性は低くないがリソースが大きい場合、PoCを通じて段階的に導入
- C(後回し):効果が低く、優先度は高くない
- D(除外):あまりメリットが期待できず、コストばかりかかるなら一旦見送る
ユースケースごとの要件定義
具体的な“シナリオ”を想定する
いざノンプロンプト化するときは、単に「AIが要約してくれる」「AIが翻訳してくれる」という抽象的な要望だけではなく、実際のシナリオを描くことが重要です。
たとえば「会議議事録の自動作成」であれば、
- どのフォーマットの音声やテキストを入力するのか
- どのレベルの要約が必要か(箇条書きか、数段落にまとめるのか)
- どの部署でそのアウトプットを共有するのか
といった流れを、現場の視点に立って具体化します。
これを「ユースケース」としてまとめると、開発チームが具体的な要件を落とし込みやすくなります。
入力と出力を詳細に定義する
ノンプロンプト型AIツールは、ユーザーがボタンを押すだけで処理が進むため、入力と出力の形式を明確に決めることが欠かせません。
- 入力定義
- ファイル形式(docx、Excel、PowerPoint、PDFなど)
- テキストペーストの方法(チャット欄へ貼る、アップロードする)
- 画像や音声の場合は、事前に文字起こしが必要かどうか
- 出力定義
- 文字数制限(例えば300文字以内とか、要約率50%など)
- フォーマット(箇条書き、段落、Markdown形式など)
- 文体(ビジネス敬語、カジュアル、論文調など)
こうした要件をユースケースごとに整理し、「ボタンを押すとどうなるか」を具体的にイメージできるようにします。
UI/UXの検討
シンプルさを最優先
ノンプロンプト化の目的は、「ユーザーがAIに対して難しい指示を書かなくても使える」ことにあります。
そのため、操作画面やボタン配置は極力シンプルにするのが鉄則です。
- 例
- 社内ポータルに「文書要約」というボタンがあり、そこにファイルをドラッグするだけで結果が返ってくる
- チャットUIでは「/要約」「/翻訳」といったコマンドを打つか、ボタンをタップするだけで実行可能
フォーム入力型の選択肢
シンプルさを保ちながらも、必要に応じてユーザーに入力する項目を少し設定させる方法もあります。
たとえば「文章要約」ボタンを押したときに、ポップアップが出てきて「文字数の上限」や「文体(敬語/カジュアル/論文調)」だけ選ばせる、といったイメージです。
こうすることでユーザーはある程度好みの出力をコントロールできるので、詳細なプロンプトを頭の中で組み立てる必要はありません。
エラーハンドリング
実際に導入すると、ファイル形式が不正だったり、ネットワークが不安定だったりしてAI側でエラーが起こることもあります。ハルシネーションのリスクも大きくあります。
要求整理の段階で、「エラーが起きた場合、どんなメッセージを表示してユーザーに何を促すのか」を決めておきましょう。
- 例:
「アップロードされたファイルがサポート外です。XXXを使用してください。」
- 例:
「処理に失敗しました。XXXをして再度お試しください。」
ユーザーが戸惑わずに対処できるメッセージ設計や、問い合わせ窓口の案内などを用意しておくと、運用時のトラブルを最小限に抑えられます。
セキュリティガイドライン
社内規定との整合性
生成AIツールを導入する際、社内のセキュリティポリシーや情報管理規定と合致しているかを必ず確認する必要があります。
特に外部クラウドサービスのAIを利用する場合、守秘義務のある情報を外部サーバに送信していないかが重大な論点となります。
- 例1:秘密保持契約(NDA)や個人情報保護法に抵触しないか
- 例2:社内で承認を得たAIプラットフォームなのか、勝手に無料版APIを呼んでいないか
オンプレミスやプライベートクラウドの検討
もし機密性が高い業務をノンプロンプト化したい場合、オンプレミス環境やプライベートクラウドでAIモデルを運用する方法も検討しましょう。
外部へのデータ送信を最小限に抑えられるため、セキュリティリスクが下がり、社内でも安心して使えるケースが増えます。
管理権限
ノンプロンプト化ツールでは、どんな入力データがAIに渡ったかをログとして記録するか、どの範囲まで残すかも重要です。
あまり詳細にログを残すと逆に個人情報や機密データを溜め込みすぎるリスクがあるので、事前に方針を決めておきます。
「入力テキストは要約処理後、即時削除する」
「最終出力のみログに残すが、元文書は保存しない」
「管理者権限者だけがAIの実行ログにアクセスできる」
こうした設定を要求整理で固めておけば、開発段階で実装がしやすくなります。
保守運用体制に関する要件
アップデート方針
生成AI分野はアップデートが速いため、ツールを導入した後も新機能やモデルの更新が発生します。
要求整理の段階で、「バージョンアップをどう扱うか」「いつどのタイミングで切り替えるか」「互換性はどう確保するか」といった方針を決めておくと、後々の混乱を減らせます。
使い始めのサポート
ノンプロンプト化ツールは使いやすい設計が前提ですが、それでもユーザーが初めて触れる際には疑問が出るはずです。そこで、
- 専用のヘルプページ(手順書やFAQ)
- 社内チャットの問い合わせチャンネル
- 検証環境でのテスト利用期間
などを用意し、運用開始直後から利用者をサポートできる体制を整えましょう。
要求整理の段階でこれらの体制・リソース(担当者は誰か、時間帯はいつ対応するか)を明確にすることが大切です。
定期的なフィードバック収集
ツールが完成したからといって終わりではありません。
実際に現場で使ってもらい、「使いやすい」「こういうボタンが欲しい」「この出力精度をもう少し上げたい」というフィードバックを定期的に集めて、継続的に改善していく仕組みを検討しましょう。「月に1回、ノンプロンプトツール活用ミーティングを開き、ユーザーから要望をヒアリングする」
などが有効です。
要求整理がノンプロンプト化の成否を分ける
ノンプロンプトAIツールを社内で開発・導入するうえで、要求整理フェーズは重要な基盤となります。ここをしっかりと固めることで、
- 対象業務の優先度が明確になる
- 具体的なユースケースが言語化され、開発チームがスムーズに設計できる
- セキュリティ・データガイドラインと整合性をとった安全な運用が可能
- ユーザーインターフェイスがシンプルかつ業務に即した形で構築される
- 将来的なアップデートや運用保守の方針も見据えられる
結果的に、完成したツールが「とにかく使いやすい」「誰でもすぐ使える」「セキュリティ面でも安心」という形となり、組織全体へ爆発的に普及していく可能性が高まります。
ぜひこの要求整理フェーズで、現場の声をしっかり拾いながら、AIスペシャリストや開発者、セキュリティ担当者、そして最終的に使うユーザーが一丸となってノンプロンプト型AIツールのあるべき姿を描いてみてください。
こうした準備ができて初めて、「プロンプトを書かなくてもAIが使える業務」を実現できるのです。
ゼロから生成AIを導入し、ノンプロンプト型AIツールまで作り上げる全体像
ステップ0:遅れている現状の自覚
- なぜ“今から”がすでに遅いか
- 生成AIの進化は極めて速く、取り組みを先行している企業とのギャップを埋めるには、早めの意思決定が必要
- 「遅れている」を認めるメリット
- 先行事例から失敗や成功のポイントを学び、一気にキャッチアップしやすくなる
ステップ1:外部コンサルタントにお手本を見せてもらう
- 内部だけで解決しようとしない
- AI導入スピードに追いつくには、最新事例や横断的なノウハウを持つ外部コンサルが有効
- コンサルタントを活用するメリット
- 失敗事例も含めて学べる
- 短期間(1〜2ヶ月)で“最初の成功体験”を作りやすい
- 社内説得の材料にもなる
- 業務プロセスの洗い出し
- まずは社内でどの業務がAI化しやすいかを整理し、インパクトの大きい領域に集中
- コンサルタントのやり方を学ぶ
- 成果物だけでなく、プロセスや思考過程を観察し、社内にノウハウを残す
ステップ2:社内に3名のスペシャリストを育成する
- なぜ3名なのか
- 1人では離脱リスク、5人以上では管理が大変
- 3名なら知識を補完し合い、適度な刺激と競争が生まれる
- スペシャリストに必要な条件
- 新しいツールに抵抗がない
- タイピングや基本PC操作ができる
- 英語情報を翻訳ツールで読める意欲がある
- 試行錯誤を楽しめる
- 調査タイムの重要性
- 「毎日1時間、AI関連の情報収集やツール試用を行う」枠を公式の業務として確保
- 1〜2ヶ月でも合計20〜60時間の学習量を確保でき、スペシャリストが大きく成長
ステップ3:組織全体に生成AI研修を実施する
- 全社研修の必要性
- スペシャリストだけでは組織全体の生産性向上にならない。現場レベルのスタッフが前向きになるために、幅広い研修が不可欠
- ハンズオン形式が効果的
- パワポの座学だけでは行動に移らない
- 各自のPCで実際にAIを触り、「AIが動く感動」を体験
- 研修後のフォローアップ
- 質問チャンネルやFAQ、定期フォローセッションで疑問を解消し、使い続けてもらう環境を整備
- 強制研修と希望研修のバランス
- 「全員必須の基礎研修」と「オプショナルの応用研修」に分けて、導入ハードルを下げつつ、意欲のある人が更に深いスキルを学べる場も作る
ステップ4:ノンプロンプトで使いこなせる仕組みを導入する
- プロンプトを書く難しさ
- 詳細なプロンプトを考えるのは、多くの人にとって敷居が高い
- ノンプロンプト化とは?
- あらかじめ裏側に最適なプロンプトを仕込み、ユーザーはボタン一つ・ファイルドラッグだけでAIを利用できる仕組み
- ノンプロンプト化の利点
- プロンプト作成の負荷がなく、誰でも簡単に使える
- 出力品質が一定に保たれ、組織全体で標準化しやすい
- “AIを使っている”感覚が薄れ、業務の一部として自然に定着する
ノンプロンプトAIツール開発の要求整理
- なぜ要求整理が重要か
- ノンプロンプト化では裏側のプロンプトを正確に設計する必要があり、対象業務やユーザー要件の定義が欠かせない
- 対象業務と優先順位
- 効果の大きいユースケースを先に洗い出し、インパクトと実現可能性を評価して取り組む順番を決める
- 入力・出力と“裏側のプロンプト”を具体化
- どのファイル形式を扱い、最終アウトプットはどんなフォーマットか
- セキュリティ・データ管理
- 社内ルールとの整合、オンプレやプライベートクラウドの検討、権限管理の設定
- 保守運用と継続的アップデート
- バージョン管理や定期的なフィードバック収集で、ツールを最新の状態に保つ
- サポート窓口やヘルプドキュメントを整備
全体を通したポイント
- 導入初期のスピード感
- 外部コンサルタントの力を借りて短期集中プロジェクトを回し、“最初の成功体験”を短期間で得る
- 社内スペシャリストの育成
- 毎日1時間の調査タイムと、3名という最適人数で知見を相互補完
- 全社研修でAIの“体感”を広める
- ハンズオン形式を中心にして、“意外と簡単”“想像以上に便利”と思わせる
- ノンプロンプト化でハードルを下げる
- ボタンを押すだけで業務を自動化し、“プロンプトの壁”をユーザーに意識させない
- 要求整理による“ハズさない開発”
- どんな業務にどう使うか、裏側のプロンプトやセキュリティを含めて事前に固めることで、使い勝手と安全性を両立
最終的なゴール:生成AIが“当たり前”に使われる組織へ
これらのステップを踏むことで、単なるPoC(概念実証)や一部の有志メンバーだけが使う状態から脱却し、組織全体が生成AIを日常的に活用できる体制を作り上げることができます。
最終形態としては、ノンプロンプト型AIツールが社内ポータルやチャットシステムに深く統合され、社員は「AIに頼む」という意識すら持たずに業務をこなせるところを目指せます。
最終的には、「生成AIを使うかどうか」ではなく、「どう使えばもっと便利か」が議論される段階に至ります。
そこまで達すれば、組織としてのDXが一気に加速し、従来の働き方を変革する大きな一歩となるでしょう。
要求整理がなかなか難しい場合は?要求整理の後の要件定義や開発は?
要求整理についても解説してきましたが、いざAIツールを開発するとなると、技術選定や要件定義などの技術的な専門領域に入ってきます。社内でそれらの開発ができるとよいですが、シンプルなシステム開発のスキルに加えて、AIの技術的なスキルも持ち合わせて開発するとなると、かなりの工数と人材を要します。
コーレでは要求整理〜要件定義〜デザイン〜開発まですべてサポート
コーレができること
コーレでは、AI戦略などの上流工程から、AI導入・AI開発・AI開発におけるアノテーションなどの下請け工程まで、一気通貫支援も、スポット支援も、幅広く柔軟に対応しています。
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コーレは、戦略コンサルタント、デザイナー、エンジニアが中心となり、AIとビジネスをつなぐAIコネクティブカンパニーです。戦略・企画から制作や開発、マーケティング支援や営業代行まで、一気通貫で上流から末端まで担うパートナーとして伴走します。お客様の要望に沿ったオーダーメイドなサポートをします。
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