大企業の研究機関が抱えるジレンマとして、素晴らしい研究の“お蔵入り”リスクがあります。
大企業で長年にわたり研究開発を続けている部門があるとします。
そこでは最先端の技術やアイデアが次々と生み出されています。
社内では「ここまで進んでいるのか!」と驚くほどのハイレベルな成果を蓄積しているとしても、いざ社外に向けて情報発信をしようとすると、なぜか腰が重く、一向にうまくいかない。
そうこうしているうちに、研究成果が事業化されないまま時間だけが過ぎ、「あの研究は結局、実用化されなかったね」というケースが起こりがちです。
大企業の研究部門がオープンイノベーションやアクセラレーションを推進できない理由は、多岐にわたります。
- 社内稟議やステークホルダー調整が煩雑で外向きに時間を割けない
- PR活動を担当する広報部門との連携がうまくいっていない
- 「研究者は黙々と研究する」という文化が根強く、積極的な情報発信が苦手
- 研究者自身が「社外発信なんて自分の仕事じゃない」と考えてしまう
- 経営陣が「研究成果は秘密」と考え、外に出すことを恐れる
結果として、せっかくの最先端技術が眠ったまま「もったいない」状態になるのです。
これは大企業だからこそ陥りやすいジレンマと言えます。
研究投資は潤沢に行われ、素晴らしい成果を持っているにもかかわらず、実際のビジネス活用や事業化が追いつかない。
コーレはこれを解決するためのブランディングPMO&BPOのサービス「ゴーストブランディング」を提供しています。
最高に面白い研究ができているのに、それを外に見せられない。
もしくはどう見せたらいいかわからない。
多くの研究者が「この技術は本当にすごいんです!」と言いながらも、誰もその凄さを知らない。
そんな歯がゆい状況を解決するためには、どのようなアクションをすればよいのか。
その状況を乗り越え、うまくPRやブランディングを行えば、研究機関そのものを新しい「事業の柱」に変えたり、外部との協業で画期的なイノベーションを起こせたりします。
そうなると、研究開発から新規事業開発への事業化の道が待っています。
一方で壁を壊す苦しみも待ち受けるわけですが、本稿では、その壁を乗り越えて「研究機関の情報発信を成功させる具体的なHowTo」をお伝えしていきたいと思います。
- 第1章:研究機関におけるPRとブランディングの“意義”を知る
- ブランディングの本質:一見無駄に見える“意志のある文化”を育てる
- 第2章:研究機関のPR・ブランディング戦略を立てる前の地獄
- 第3章:研究機関のPR・ブランディング戦略立案ステップ
- 第4章:具体的なPR・ブランディング施策とその進め方
- 第5章:研究機関のブランディング実行に伴う社内“地獄”と対処法
- 社内稟議を通すための“理論武装”としてのAI活用
- 第6章:オープンイノベーションとアクセラレーションを加速させる方法
- エモーショナルな社外発信:複数ストーリーを小出しにするテクニック
- 第7章:PRとブランディングが事業化に繋がる“最高の瞬間”
- 第9章:外注活用のコツ:戦略からクリエイティブまで一気通貫すべし
- 第10章:研究機関のPRとブランディングを成功させるための心得
第1章:研究機関におけるPRとブランディングの“意義”を知る
なぜ研究機関にPRやブランディングが必要なのか?
大企業内の研究機関は、往々にして「研究するのが仕事」であって、PRやブランディングとは無縁だと思われがちです。
しかし、近年はオープンイノベーションの潮流が強まっており、大学やスタートアップ、他の大企業との協業が成果を生む時代です。
このとき、研究機関自体の“ブランドイメージ”や“社外認知”が弱いと、せっかくの協業チャンスを逃してしまいます。
「なんだか聞いたことない研究所だけど、どんな実績があるの?」
「大企業〇〇社の研究部門らしいが、具体的に何が強みなのか分からない」
こんな声が社内外から聞こえてしまう状態では、オープンイノベーションは進みません。
一方で、「あの研究部門は産学連携の実績も豊富で、面白い技術をどんどん実装しているらしい」という評判があれば、自然と声がかかり、アクセラレータープログラムや共同研究が回り出します。
要するに、研究機関にもブランディングが必要なのです。
ブランディングというと一般消費者向けのイメージが強いかもしれませんが、BtoBの世界でも、あるいは研究機関同士のコラボでも、“信頼”と“期待感”を醸成する効果があります。
これがPR活動とセットで機能することで、“社外とつながる扉”が大きく開かれるわけです。
研究成果を“宝の持ち腐れ”にしないために
研究機関がPR・ブランディングを怠るとどうなるか?
「素晴らしい成果」が“研究期間の満足”で終わってしまいます。
研究者の誇りは保たれるかもしれませんが、ビジネス成果に直結しにくくなってしまいます。
社内の他部門からも「結局、何やってるのか分からない」「投資した割にリターンが見えない」と言われがちです。
逆に、適切な情報発信ができると、
- 社外からの評価が高まり、人材が集まりやすくなる
- 社内にも評価され、予算増や組織拡張などが見込める
- 大学やスタートアップと連携がスムーズになる
- 新規事業部門として外部資金や補助金などを獲得するチャンスが広がる
こうした“ポジティブスパイラル”を回すためには、地道なPR活動やブランディングが欠かせません。
大企業研究機関が陥りがちな“対外発信しない文化”の打破
「社外に研究内容なんて発信する必要あるの?」
「うちの機密技術を外に見せるなんてリスクが高すぎる」
「研究者は結果が出てから発表すればいい」
こんな声が社内外にあることで、研究のPRが後回しになっているケースは多々あります。
確かに、企業秘密や特許関連の問題は慎重にならざるを得ません。
しかし、「すべてを伏せる」必要はないはずです。
むしろ、研究の一部をオープンにすることで、外部から有用なアイデアや協力を得ることができます。
これを“オープンイノベーション”と言いますが、日本企業はここが苦手とされてきました。
大企業研究機関だからこそ、「これは出しても大丈夫」「ここは企業秘密」といった線引きを行いながら、うまく対外発信する仕組みが必要です。
そのためには専門の広報担当だけでなく、研究者自身が「適切に情報を出していく」マインドを持つことも大切です。
大企業本体のブランドガイドラインの制約
大企業の研究機関が独自のブランドや発信スタイルを打ち出そうとするとき、往々にして“本体のブランドガイドライン”という大きな壁に直面します。
企業全体で決まっているコーポレートカラーやロゴの使用法、フォントやトーン&マナーなどが厳格に定められているため、「自由にデザインしたい」「もっと攻めたキャッチコピーを使いたい」と思っても、ガイドラインに抵触してしまい、せっかくの新規事業や研究テーマならではの魅力が抑制されてしまうのです。
ガイドライン違反はブランド毀損になる、という企業的考え方
大企業ほど「ブランドガイドラインは絶対」という風潮があります。
理由は単純で、長年かけて積み上げてきたブランド価値を誤った表現で損なうわけにはいかないからです。
研究機関が独自のロゴを作ろうとしても、「本体ロゴと混同を避けられない」「コーポレートカラーから逸脱する」などの理由で止められがちです。
これは大企業としては理解できる一方、新規事業や研究機関の“尖った魅力”を発揮する余地が削られるジレンマでもあります。
“狭い許容範囲”に合わせ続けるストレス
「その色は使えません」「そのトーンはNGです」「正式名称は必ずフルで書いてください」――細部にわたる使用規定により、PR素材や広告、Webデザイン、展示会ブースのレイアウトすら“既存のフォーマット”から大きく逸脱できない場合もあります。
結果として、他部門と差別化しにくくなり、「研究テーマの尖り」が伝わりにくい無難なイメージになってしまうのです。
ガイドラインをどう味方につけるか?
とはいえ、ガイドラインを守りつつも新しい表現を模索することは可能です。
たとえば以下のアプローチがあります。
- 本体ロゴに“バリエーション”を許可してもらう
コーポレートカラーを微妙にトーンチェンジするなど、ガイドライン上に“サブカラー”や“サブロゴ”を設ける運用案を通す。 - 派生ブランドという立て付けを活用する(Powered by)
社内外のプロジェクト名・ロゴを“本体ロゴと併記”する形で認めてもらい、研究機関の特色を一定範囲で表現可能にする。「Powered byなんとか」という表記の仕方はよくあります。
事前合意と社内稟議のポイント
ガイドラインを部分的にでも緩和・改変してもらうには、ブランド管轄部署(コーポレート部門やマーケティング部)との綿密な交渉と稟議が不可欠です。
- 「尖った表現が企業イメージを高める可能性」を数字や事例で示す
先進企業の成功事例や類似業界のブランディング施策を引用し、リスクよりリターンが大きいことを論理的に説明する。 - 生成AIによる反論シミュレーションで“社内QA集”を整える
「そこまで尖った表現は危ないのでは?」といった社内想定質問をAIで洗い出し、回答案を作り込むことで稟議通過率が上がる。
ブランディングの本質:一見無駄に見える“意志のある文化”を育てる
ブランディングは「捨てること」を決めること
よく言われる例として「ブランディングとは“ブランド力を高める”こと」ですが、その真意は「誰にどう見られたいのか、そのために何を捨てるのか」を決める行為です。
たとえば“重厚な契約を結ぶときにはキャッシュケースを使う”という、一見無駄で儀式的な行為がブランドとしては重要だったりします。
これは“意志のある文化”とも言えます。
「研究所には、奇抜な意匠の応接スペースがある」「研究員が登壇するカンファレンスでは、面白い実験演出を必ず仕込む」といった“あえての演出”も、ブランドを形作るには欠かせません。
ギャル文化×エンジニア文化? ポジションを決める意味
「なんでギャル文化?」「なんでエンジニア文化?」と突飛に思えるかもしれませんが、要は「自分たちがどこのカルチャーの界隈でポジションを取っていくか」を決めることがブランディングのスタートです。
たとえば「エンジニア向けに深い技術の話しかしない」と決めるなら、その分他の文脈(たとえばビジネス系の薄い情報)を捨てる覚悟が必要でしょう。
あるいは「若い学生やベンチャーに対してとにかく寄り添うスタンスを取る」のであれば、大手企業幹部向けのビジネスライクな発信は捨てます。
ブランディングとは“全方位に向けて良い顔をする”ことではなく、“特定の界隈で圧倒的存在感を出す”ことに近いのです。
誰に見られなくていいのか、を先に定義すると動きやすくなります。
「あの会社のあの部門って、こうなんだね」と言われ始める最初の一歩
ブランディングが成功すると、外部や内部から「あの会社のあの部門って、こうなんだね」「うちの会社のあの研究所って、こうだよね」と言われ始めます。
例えば「あの研究所は異常に綺麗なプロトタイプを出してくるよね」でも「なんだか知らないけどめちゃくちゃ突き抜けて尖ってるよね」でもいいのです。
その“ひとまとめ”のイメージが醸成されると、次第にそこへ人とリソース、情報が集まってきます。
第2章:研究機関のPR・ブランディング戦略を立てる前の地獄
PRやブランディングを始める前の段階で、大企業の研究開発部門が抱える共通の悩みを整理しておきましょう。
既存事業との軋轢:研究部門はコストセンター?
大企業の既存事業部門からすると、研究開発部門はしばしば「コストセンター」と見なされがちです。
「利益を生み出さず、予算だけかかる存在」という見られ方です。
PRを強化するにしても、「また費用がかかるだけで、どんなリターンを生むんだ?」と責められたりします。
これはしんどい部分です。
研究者としてはプライドもあるし、実際にすごい研究をしているのに、それが認められない。
しかし、外部との連携によって新しい収益源を作ったり、特許ライセンスなどの知的財産収入を拡大したりできれば、研究部門も“コストセンター”ではなく“プロフィットセンター”になり得ます。
ここが逆転劇になるポイントなのです。
情報公開への恐怖:機密管理とオープン化の両立
研究内容を外に出すとなると、「大丈夫なのか?機密が漏れたらどうする?」という声が必ず出ます。
特に大企業ではコンプライアンス意識が強く、担当者は「少しでもトラブルがあったら責任問題になる…」と怖くなります。
結果として“何も出さない”選択をし、研究が埋もれてしまいがちです。
これでは本末転倒ですね。
ただし、本当に機密にしておくべき部分と、オープンにして発表することで社会からフィードバックを得られる部分は厳密に分けるべきです。
この線引きを誤ると危険ですが、うまく切り分けられればすごいイノベーションが待っているかもしれません。
社内理解の獲得:PRの意義を分かってもらえない
「研究開発していれば、そのうち何か当たるだろう」
「うちみたいな知名度のある企業なら、わざわざPRなんてしなくてもみんな知ってるでしょ?」
こういう空気があると、PRやブランディングの必要性は社内で理解されにくいものです。
特に予算を取りに行くときに「本当にそれって必要なの?」と疑問視される可能性が高いです。
ここを乗り越えるには、前章で述べた“オープンイノベーション成功のためには情報発信が不可欠”という論理をしっかり社内に伝える必要があります。
第3章:研究機関のPR・ブランディング戦略立案ステップ
では具体的に、どのように戦略を立てていくか?
ここではトラブルを回避しながらPRをうまくいかせるためのコンサルティング的アプローチをご紹介します。
まず“何をPRするか”を明確にする:研究ポートフォリオの可視化
研究機関が抱える研究テーマは膨大かもしれません。
AI、量子コンピューティング、素材開発、IoT、ロボティクス…いろいろあるでしょう。
しかし、すべてを一度にPRするのは得策ではありません。
外部からすると焦点がぼやけるし、社内からも「なんでこれを今アピールするんだ?」と反発が出ることが多いです。
研究ポートフォリオを棚卸しする
まず、研究テーマの一覧を作り、それぞれのビジネスインパクトや社会的インパクト、技術成熟度、機密度合いなどを整理します。
その上で「今回PRするのは、これとこれ」という優先度を決めるわけです。
例えば、比較的短期で事業化が見込める研究や、世間の関心が高い研究を優先的にピックアップする、というような基準を設けるといいでしょう。
“捨てるPR領域”を決める覚悟
大企業ほど研究テーマが散らばり、どれも捨てがたいという気持ちが強まります。
しかし、全方位に手を広げると結局どこにも刺さらないPRになってしまいます。
勇気を持って「これはPR対象外」「これを伸ばしたい」という意思決定を行うこと。
それができないと永遠に“なんとなく広報資料を作って終わり”になりがちです。
誰に伝えるか?ターゲットの明確化
研究機関のPRやブランディングでは、必ずしも一般消費者を対象にする必要はありません。
むしろBtoBやアカデミア、スタートアップなど専門性の高い層がメインターゲットになります。
- スタートアップ企業や大学の研究室
- 既存取引先の技術部門
- 関連省庁や研究所、学会
- 海外の専門機関やパートナー候補
こうしたターゲット層が何を求めているのか?どんな情報が欲しいのか?
これを把握することで、PRの方向性が大きく変わります。
例えば、海外の専門機関をターゲットにするなら英語での情報発信が不可欠になるし、学会を狙うなら論文ベースのアピールが重要になってきます。
ペルソナ設定の極意:「潜在的欲求を言語化し、一番表層化している人物」
ブランディングの初手としてよく挙げられるのが「ペルソナ設定」です。
ここでありがちなのは「架空の30歳男性エンジニア、年収800万円、趣味はオンラインゲーム…」みたいな形式的な設定です。
しかし重要なのは、潜在的欲求を徹底的に言語化することです。
人間は本音と建前を両方持っています。
「実は画期的な挑戦に憧れているけど、社内ルールが堅くてチャレンジしづらい」みたいな、「XXだけど、本当はYYである」という深層的な部分に目を向けて“一番表層化している人物”をペルソナとして設定すると、広告クリエイティブや情報発信にも芯が通ります。
潜在的欲求をあぶりだす際には、アンケートやヒアリングのほか、生成AIを活用してヒントを得ることも有効です。
内と外の二段階戦略:インナーブランディングとアウターブランディング
インナーブランディング(社内向け)とアウターブランディング(社外向け)は、概念としては同じ「ブランド形成」ですが、やるアクションが大きく違います。
- インナーブランディング … 社内での納得感を重視
- アウターブランディング … 社外での驚きやインパクトを重視
研究機関だと、まずは社内で自分たちがどんな研究をしていて、どんな未来を目指しているのかを共有しないと、稟議や予算などが進みません。
きちんと経営陣や関連部署が「この研究は社内にとって意義がある」という納得感を得る必要があるのです。
一方で社外に対しては「こんなにすごいことをやっているのか」と驚かせるインパクトが重要になります。
テック系カンファレンスや学会、SNSなどで、驚きとワクワクを与えなければ、人々は振り向きもしないでしょう。
社内は納得感重視、社外は驚き重視
たとえば、同じ研究内容を発信するにしても、社内資料は論理性と数字の根拠に重きを置くのに対し、社外向けのPR資料やイベントではビジュアルやストーリー性を最優先する、というメリハリが必要です。
「社内にはA4レポート20ページに渡るデータ付きで報告。社外には5分のプレゼン動画とインフォグラフィックスで発表する」など、同じテーマでも切り口が異なってくるわけです。
研究機関としての“ブランドコンセプト”を策定する
ブランディングでは「どんな存在として認知してもらいたいのか?」を明確にすることが重要です。
例えば、「AIと生体信号を組み合わせた新しい診断技術のプロフェッショナル集団」とか、「産学連携で世界をリードするロボティクス研究所」といったコンセプトです。
大企業の看板があるだけに、「〇〇社の研究機関」と言えばある程度の信頼は得やすいです。
しかし、その上で「何が強みなのか?」を明確にしないと、ただの“よくある大企業の研究所”で終わってしまいます。
ブランドコンセプト設定の具体的ステップ
- 自社(研究機関)の強み・コア技術を洗い出す
- 特許数、学会発表数、実績、研究分野の深さ、研究者の実績など
- 社会課題やマーケットのニーズと照合する
- AI技術ならどの産業に応用可能か?ヘルスケア?製造業?
- 競合や他研究機関との差別化ポイントを見極める
- 他社との差が曖昧だと“なんとなく似てる大企業研究所”扱いで埋もれてしまう
- “目指す未来像”を設定する
- 「この技術で世界をこう変えたい」というビジョンを掲げる
こうした作業を踏まえて、キャッチコピーやタグラインを考えると、ブランドとしての軸が定まりやすいです。
このコンセプトこそがPR活動やメディア向けの発信における“一貫性”を支えます。
言葉を考える時には、一度表形式でまとめて書き出してみるとよいです。
コーレではブランディングを行う際のブランディングシートがあります。
KPIの設定:PR・ブランディングの成果をどう測る?
大企業でPR予算を確保しようとすると、「それでどんな効果があるの?」と聞かれがちです。
PRやブランディングは定量的な成果が見えにくい部分もありますが、なるべくKPIを設定して“見える化”しておくことが望ましいです。
- メディア掲載数:どの程度、新聞・雑誌・オンライン媒体に掲載されたか
- Webサイトアクセス数:研究部門の公式サイトやプレスリリースへのアクセス動向
- 問い合わせ件数:共同研究や技術ライセンスの打診など、外部からのコンタクト数
- 学会発表数・引用数:研究機関としての学術的評価
- 採用応募数:研究者やエンジニアの応募が増えるかどうか
こうした指標を組み合わせて「PR投資の効果」を追いかけることで、社内に説明しやすくなります。
第4章:具体的なPR・ブランディング施策とその進め方
ここからは、研究機関向けに具体的なPRとブランディングの施策を列挙し、どのように実行すればよいかを解説します。
プレスリリースを“先に作る”:新規事業と同様の発想
新規事業の立ち上げ時にコーレでもおすすめしている「プレスリリースを先に書く」手法は、研究機関のPR企画でも有効です。
研究テーマが多岐にわたる場合でも、「まずどんな内容で世の中に発表したいか?」を言語化すると、社内外での共有がスムーズになります。
実際にプレスリリースを出さないにしても、まずはつくってみることで、発信していきたい内容の解像度が上がっていきます。
プレスリリースは“研究成果の価値”をシンプルに伝える訓練
- どんな研究テーマなのか
- どんな課題を解決するのか
- どの市場や産業にインパクトがあるのか
- 社会的意義は何か
これを400字~800字程度の短い文章でまとめられないと、外部の方はまず理解できません。
「うちは複雑な研究だから…」と言い訳をしてはいけません。
複雑なものをわかりやすく伝えるのがPRの要です。
研究機関内で“プレスリリース案”を回覧するメリット
プレスリリースの草案を作り、研究機関内で回覧すると、「あれ、実際の研究とはちょっとズレてるんじゃないか」「ここはもっと強調すべき」といったフィードバックが必ず出ます。
これを繰り返すことで、PRの切り口や表現が洗練されていき、自然と研究内容の整理が進むのです。
テック系メディア・学会・展示会を活用する
専門的なメディアへの寄稿や取材
研究のPRには、専門的なメディアの存在が欠かせません。
例えばAI分野であれば「AI専門ニュースサイト」や「専門家向けのブログ媒体」、ロボティクスなら「ロボット専門誌」など、ターゲットを絞った媒体を活用します。
そこへ研究内容やプロジェクト事例を寄稿する、あるいは取材に来てもらう。
こうした地道な活動が「研究部門の存在感」を高める一助となります。
学会発表:研究者のモチベーション向上と社会的評価
学会発表は研究者にとって重要なアピールの場です。
論文を発表し、質疑応答で専門家からの評価を得ることで、技術的クオリティの向上や外部のパートナー獲得につながります。
また、「〇〇学会で最優秀論文賞を獲得」という形で、社内外へのニュースバリューを作れるのも大きい利点です。
展示会やカンファレンス出展:“対面”の強みを活かす
研究機関のブースを出し、試作機やデモを展示することで、来場者にダイレクトなインパクトを与えられます。
リアルな場では思わぬ企業や研究者とつながる可能性も高く、そこから共同研究やライセンス契約が生まれる例も珍しくありません。
「展示会は地味に予算がかかるし、PR効果は未知数」と尻込みするケースも多いですが、研究内容を“生で見せられる”機会は貴重です。
できるだけ最小限で展示会やカンファレンスに出展しようとすると、だいたいの予算は10万〜200万円ほどをみるとよいでしょう。
テスト的な意味で出展する場合は、ブースの格好良さは捨てて、予算は最小限に抑えるべきです。
カンファレンスの場合、内部に知り合いがいたりすると安価に出ることができたりします。
東京ビッグサイトや幕張メッセで行われる大規模な展示会の場合は、小さいスペースで場所代でだいたい50~100万円で、ブースの設営費用や備品レンタル代などで30~100万円くらいかかります。
そこに当日の運営人件費や交通費が乗ってくると、だいたい200万円前後になります。
研究者自身の発信力強化:SNSやカンファレンストーク
研究者のSNS活用:LinkedInやX(Twitter)
研究者自身がSNSで情報を発信するのは、特に海外では当たり前になっています。
LinkedInで「今こんな研究に取り組んでいる」「学会でこんな発表をした」と発信すれば、専門家のコミュニティとつながりやすくなります。
X(Twitter)も、研究者コミュニティの情報交換に使われることがあります。
ただし炎上リスクや機密漏洩リスクには注意が必要です。
生成AI界隈だと、中の人が「こんな機能ができました」というような発信をよくしています。
それをAIインフルエンサーの方々が引用して投稿して一般層に広がっていきます。
研究部門→インフルエンサー→感度の高い一般人→一般人というような流れで情報が波及していきます。
カンファレンスでの登壇・パネルディスカッション
外部イベントに登壇し、専門家同士で議論を交わすのもよいPR手段です。
観衆の前で研究内容を語ることで、より多くの人々に知ってもらえるし、質疑応答を通じて外部からの示唆を得られます。
「大企業の研究者が公の場に出るのはリスクがある」と言う人もいますが、世間に名前と顔を出すことで信頼性が高まる面も多々あります。
コーポレートサイト・研究所サイトのリニューアル
“研究部門専用サイト”の意義
大企業のコーポレートサイトとは別に、研究部門専用のサイトを作ることがおすすめです。
研究内容の概要をわかりやすくまとめ、担当者インタビューや動画でのデモなどを掲載すれば、オンライン上での認知度が高まります。
特に海外パートナーを狙うなら英語版ページの整備も必須です。
誰が更新を担当するか:外部パートナーの活用
問題は「サイトを作っても、誰が継続的に更新するか?」です。
研究者は本業が忙しく、広報部門は研究の専門知識が乏しい──となりがちです。
そこでWeb制作や運営を外注しつつ、研究者が最低限のコンテンツを提供する形を取るとスムーズです。
コンサルティング会社や専門のPR代理店が“運営代行”をして、研究者の負荷を最小限に抑えながらサイトの鮮度を保つ手法もあります。
コーレでは、Webサイト制作を行なっています。
多言語対応もしますし、大企業本体のブランドガイドラインをインプットして、適切な表現範囲内で最大限のクリエイティブを生み出していきます。
また、そのままオウンドメディアとしてのコンテンツマーケティングも行うこともできます。
専門メディア・プレスリストの整備とリレーション
“誰にリリースを送るか”が超重要
プレスリリースを出すとき、PR TIMESに送ればよいと考えているなら、もったいないことです。
研究テーマによっては、業界専門誌や学術専門誌、オンラインの専門メディアなど“コアな読者”を抱える媒体にアプローチするほうが効果的な場合が多いです。
リストの整備は地味な作業ですが、「このテーマならこの記者やこのメディア」というマッチングができると、取材や掲載につながりやすいものです。
プレスキットの用意:画像・動画・研究概要シート
記者が記事を書くときに使える素材を一式揃えておくのも重要です。
研究成果を示すグラフや図解、プロトタイプの写真・動画、研究概要のPDFなどをまとめ、「プレスキット」として提供すると、メディア側は扱いやすくなります。
これを整備するだけで、記事になる確率が上がり、掲載時の情報齟齬も減らせます。
第5章:研究機関のブランディング実行に伴う社内“地獄”と対処法
PRやブランディング活動を実行する過程では、社内調整の苦痛が待っています。
ここではその典型例と乗り越え方をご紹介します。
稟議・承認フローが複雑すぎる問題
大企業では予算申請ひとつにも多層の承認が必要です。
「プレスリリースを出すだけで、部長→役員→法務→広報→経営企画…」と回覧に時間がかかることが多いです。
さらに「研究内容をどこまで出す?」という機密情報の線引きに法務が介入すると、もう一段階フローが増え、担当者は報告資料の作成だけで疲弊します。
対処法:PRガイドラインの策定
各部門がバラバラに判断していると、いつまでたっても承認が下りないことがあります。
そこで「研究開発PRガイドライン」をあらかじめ作り、“ここまでは公開OK”“ここは要審議”を明文化しておくのです。
また、承認フローも定型化して、どのタイミングで誰のサインが必要なのかを可視化することで、承認プロセスの時間を短縮できます。
他部署との軋轢:既存事業部vs研究部門
研究成果のPRに対して、既存事業部門が「うちのビジネスの顧客を奪うのでは?」と過剰反応するケースもあります。
あるいは「研究ばかり注目されて、実際に売り上げを支えている我々の存在が軽視されている」といった不満が出ることもあります。
対処法:既存事業とのシナジーをアピール
- 研究の成果が将来的に既存顧客へ新しい価値を提供できる
- 研究部門が発信することで大企業全体のイメージ向上につながる
- 研究テーマから派生したソリューションが既存事業を強化する可能性がある
こうした“メリット”を具体的に訴えることで、社内の反発を緩和する。
逆に「研究は研究、既存事業には関係ない」というスタンスだと、溝が深まってしまいます。
広報部門の理解不足:研究テーマへの興味が薄い
大企業の広報部門は、プロダクトリリースやIR情報など多岐にわたる仕事を抱えています。
そのため、研究部門のPRをしっかりフォローする余力がない、あるいは研究内容が難しすぎて理解が追いつかないという問題が発生します。
対処法:研究部門専属のPR担当、もしくは外部コンサルの活用
研究部門に寄り添い、専門用語や難解なテクノロジーをかみ砕いて発信できる担当者が必要です。
広報部門と研究者の間を取り持つ“ブリッジ”となる人材を配置するか、外部のコンサルティング会社を活用するのも一つの手です。
コンサルが研究者の話をヒアリングし、わかりやすいコンテンツに仕上げる。広報部門は最終的なリリース窓口になるという連携体制が組めると理想的です。
社内稟議を通すための“理論武装”としてのAI活用
AIに反論させて、その反論を論破するプロセス
大企業の研究機関が社内稟議を通す際、「なぜそんなに予算が必要なのか?」「リスクは何か?」など多面的なツッコミが入ります。
ここで地味に役立つのが生成AIの反論シミュレーションです。
- 自分が作った企画書の要点を、生成AIに読み込ませる
- 「この企画に対して考えうるあらゆる反対意見を列挙して」と指示する
- その反対意見に対して「どう論破できるか?」をAIと一緒に組み立てる
これにより、社内で想定外の質問が出ても比較的スムーズに切り返せるようになります。稟議書を書く段階で理論武装しておくのです。
以下の反論シミュレーションプロンプトはコピペで使えますので、ぜひご活用ください。
反論シミュレーションプロンプト
あなたは株式会社XXXのブランディング部門おける「反対意見シミュレーター」です。
まず、以下の提案本文をよく読んでください。
提案:
(ここに、提案の要点や概要・目的・予算規模・期待効果・リスクなどを記載)
次に、この企画に対する「大企業の社内ステークホルダーからのあらゆる反対意見」を想定し、それらを列挙してください。
財務担当者、人事担当者、法務部門、技術部門など、さまざまな立場から出てきそうな反論や懸念を幅広く洗い出します。
反論例の形式は以下の通りにしてください:
1. 反対意見(または懸念点)
- 想定される理由
2. 反論・懸念に対する論破・対策案
- 企画側の回答、根拠、解決策など
具体的には、以下のステップで進めてください:
1. 反対意見リストアップ
大企業の各部署や役職が持ちうる視点から、可能性のある反対意見や懸念を列挙してください。
(例:財務部からのコスト懸念、法務部からのコンプライアンス懸念、既存事業部とのセクショナリズムなど)
2. 論破・解決策の提示
上記の反対意見それぞれに対して、企画側が取るべき反論・解決策を具体的に提案してください。
どのようにコミュニケーションするか、どんな根拠やデータを示すか、どんな代替案やリスク対策を用意するかを詳しく教えてください。
3. フォーマット
それぞれの反対意見→対応策が分かるように、見やすい箇条書き、もしくは表形式でまとめてください。
最終的に、想定外の質問が飛んできても対応できるような、包括的な“反論シミュレーション”を行い、社内稟議がスムーズに通るように準備したいと考えています。なるべく多角的かつ具体的に洗い出して、的確な論破・解決策を提案してください。
社内意思決定を加速させるための生成AIの使い方
社内にはステークホルダーが多く、意見が分散しやすいものです。
生成AIを使って「様々な立場の人が持ちうる懸念点」を洗い出すだけでも、意思決定スピードは変わります。
また、特定の部門の専門用語に苦戦している場合、「専門用語辞典を作ってほしい」とAIに頼むことで作業効率がアップします。
懸念点の洗い出し専門用語辞典の作成プロンプト
あなたは株式会社XXXの研究開発部門における「社内意思決定サポートAI」です。
これから説明するプロジェクト概要や組織情報を読み込み、
社内に存在する複数のステークホルダーがどのような懸念点を持ちうるかを
洗い出してください。
あわせて、特定部門が使う専門用語についても簡易辞典(用語とその意味)を作成してください。
プロジェクト概要・組織情報:
(ここに、新規事業の目的、社内の関連部門や役職、予算規模、想定スケジュールなどを記入)
【要件1】ステークホルダーごとの懸念点を網羅的に提示してください。
- どの部署/役職がどんな視点・利害関係から懸念を持ちうるか?
- その懸念を解消するために、どのような情報や対応策が必要か?
【要件2】専門用語辞典を作成してください。
- 上記プロジェクトに関連し、特定部門(例:技術部門、法務部門 など)が多用する専門用語を想定してください。
- それぞれの用語について、わかりやすい説明(一般の社員に共有できるレベルの定義)を示してください。
【フォーマット要望】
1. ステークホルダー別懸念リスト
- 部署・役職名:〇〇
- 懸念点と想定背景
- 対応策(例:追加資料、根拠データ、別途会議の設定 など)
2. 専門用語辞典
- 用語:定義・説明
- 可能であれば、プロジェクト内での具体的な活用例も添えてください。
【その他留意点】
- なるべく多角的に、部署ごとに特徴的な懸念点を列挙してください。
- 辞典は10〜15語程度(または必要な数)で十分ですが、プロジェクトに関わりが深い用語を優先してください。
- ロジカルかつ簡潔に書いてください。
以上を踏まえ、社内意思決定をスピードアップするための参考となる情報を提供してください。
リスクシナリオと対策をAIでシミュレーションする
「この研究成果を発表したら他社に真似されるのでは?」「もし開発工程が長期化したらコストオーバーになるのでは?」など、多種多様なリスクシナリオをAIでシミュレーションしてみましょう。
もちろんAIの提案は鵜呑みにできないものの、“リスクを可視化する”一歩としては非常に有効です。
ここで得られたリスク案を手掛かりに、より細やかな対策を稟議書に盛り込んでおけば、社内承認を得やすくなるでしょう。
リスクシナリオプロンプト
あなたは株式会社XXXの研究開発部門における「リスクシナリオ・シミュレーターAI」です。
これから説明する研究計画を読んだ上で、
想定されるリスクを多角的に洗い出して、各リスクに対する対策案を提案してください。
【研究/新規事業の概要】
(ここに、研究テーマやビジョン、開発スケジュール、予算、ターゲット市場などの基本情報を記入)
【現時点で想定している課題・不安要素】
- 例:「研究成果を発表したら他社に真似されるのでは?」
- 例:「開発工程が長期化し、コストオーバーになるのでは?」
- 例:「規制当局から許認可が下りない場合があるのでは?」 など
【要件1】リスクシナリオの洗い出し
1. 技術的リスク(研究開発上の失敗、品質問題 など)
2. 財務リスク(予算超過、ROI未達 など)
3. 法的リスク(コンプライアンス、特許侵害 など)
4. 市場リスク(需要が予想より低い、競合他社の参入 など)
5. 組織・人材リスク(チームメンバーの離脱、ノウハウ不足 など)
6. その他(社会的・政治的リスク、サプライチェーン など)
【要件2】リスクごとの対策・シミュレーション
- リスクが発生しそうなタイミング・要因
- リスクが発生した場合の影響度合い(定量的/定性的)
- 推奨される対策・予防策(事前にできること)
- リスク発生時の緊急対応策(事後にできること)
- 必要な予算・リソース・社内外調整
【要件3】フォーマット
以下のような表形式、もしくは箇条書きで示してください。
例:
1. リスク名: (例:他社が模倣製品を開発)
- 発生要因 / タイミング:
- 影響度:
- 予防策:
- 対応策:
- 必要リソース:
2. リスク名: (例:開発費用の増大でコストオーバー)
- ...以下同様...
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【最終目的】
- 洗い出されたリスクシナリオをもとに、稟議書に具体的な対策案を盛り込み、社内承認を得やすくするための下準備に活用したいです。
- どんな質問・指摘が飛んできても、リスクを把握し、すぐに説明できる状態を作りたいです。
以上の要件を満たすように、包括的かつ具体的なリスクシナリオと対策を提示してください。
第6章:オープンイノベーションとアクセラレーションを加速させる方法
研究機関のPR・ブランディングの最終目的の一つは、外部との協業によるオープンイノベーションやアクセラレーションの促進です。
ここでは、実際に協業先を巻き込み、事業化を進めるためのポイントを詳述します。
アクセラレーター・インキュベーションプログラムの主導
大企業の研究機関でも、スタートアップ支援プログラム(アクセラレーター)や官民共同のイノベーションハブなどに参加したり、自ら企画することで、外部パートナーとの接点を作る方法があります。
- 社内外アクセラレーターとの連携
自社内で新規事業創出プログラムを走らせ、それに研究部門が参加する形をとります。
社内の起業家精神旺盛な人材や他部門の人材も巻き込むことができます。 - 外部のアクセラレーションプログラムに研究テーマを応募
スタートアップ支援プログラムやVC主催のアクセラレーターと共催イベントを開催すると、グローバルのスタートアップや大学研究者と一気にコネクションが広がります。
ここでも大事なのは、研究テーマや技術の価値を“分かりやすく発信”できるかどうかです。
「なんだかすごそうだけど、よく分からない」ではパートナーは集まりません。
ハッカソン・アイデアソンで研究テーマを“開放”する
オープンイノベーションを進めるには、研究テーマの一部を社外に“開放”し、みんなでアイデアを出し合うイベントも効果的です。
ハッカソンやアイデアソンという形で、大学生やエンジニア、デザイナーなど多彩な人材が集まり、研究テーマを起点に新しいアプリケーションやサービスの可能性を探る。
- メリット: 外部視点から想定外の使い方やユースケースを得られる
- デメリット: イベント運営コストや機密情報管理の難しさがある
しかし、開放する範囲を調整しながら実施すれば、思いがけないコラボレーションが生まれることも珍しくありません。
オウンドメディア(研究ブログ・論文データベース)の活用
オウンドメディアを充実させることで、常に最新の研究情報を社外に発信し、興味を持った企業や研究者がアクセスしやすくなります。
例えば「研究ブログ」や「論文データベース」を作り、研究者ごとのプロジェクト進捗や論文概要、実験映像などを公開するのです。
ここで重要なのは定期更新の仕組みづくりです。
できるだけ労力をかけずに、頑張らなくても続けられるようにすることがコツです。
また、オウンドメディアでは1年間はトラフィック関連のKPIを設定しないほうがよいです。
まずは、良質な投稿記事や情報を増やし、コンテンツとして優れているオウンドメディアとなるようにしましょう。
エモーショナルな社外発信:複数ストーリーを小出しにするテクニック
大人数への“一発ホームラン”ではなく少人数への“複数本のヒット”
「大々的なプレスリリースやテレビCMでどーんと知名度を上げればいい!」というのは強者の戦術です。
大企業の研究開発部門は、大体の場合は企業内ではあまり力を持っていないことも多くあります。
SNSやネットメディアにより、細分化されたコミュニティやターゲットに向けてストーリーを小出しにする方がやりやすいものです。
- まずはテック系コミュニティで小さな成功例をつくる
- 次にビジネス系メディアでユーザーストーリーを紹介する
- 最終的には一般向け雑誌やテレビ番組が興味を示す
というように、徐々に輪を広げていくアプローチです。
いきなり大きな発信を狙わなくても、ファンが育ってきた段階で拡散されるほうが、ブランドイメージが定着しやすいのです。
「研究領域の周辺ネタ」をどう発信し、自社の存在感を高めるか
情報発信をするなら「自社のことだけ発表すればいい」とは限りません。
むしろ、研究領域の周辺情報も交えて発信するほうが、読者や視聴者にとって有益です。
例えばAI研究所なら、「海外のAI最前線事情」「AI倫理やガイドラインの動向」「学生エンジニア支援プログラム」など、周辺トピックを広く扱うことで、「あの研究所は業界全体を見渡している、知見が豊富だ」というポジションを確立できます。
ブランドは「何を掲げるか」ではなく「何をアウトプットするか」で決まる
「私たちは未来を変えます!」といくら掲げても、アウトプットがなければ「格好いいこと言っているなー」と思われて終わるのがオチです。
ブランディングは、結局のところ具体的な発言内容と行動から形成されます。
研究所なら「論文や実験データをしっかり公開している」「分かりやすい説明動画を随時アップしている」といった“行動と成果”が鍵です。
そこにストーリー性を乗せて、たとえば「この研究の背景にはこんな失敗談がありました」と語ると、エモーショナルな要素が加わり、人を惹きつけます。
第7章:PRとブランディングが事業化に繋がる“最高の瞬間”
研究機関がPRとブランディングに取り組んだ結果、事業化のチャンスが訪れたとき、どのような流れになるのかをイメージしてみましょう。
外部企業から「一緒に製品化しませんか?」と声がかかる
これは研究機関にとって“最高に嬉しい”瞬間です。
「御社の発表していた〇〇の技術、うちの製品に組み込みたいのですが…」
「こんなサービスを一緒に立ち上げませんか?」
こうした声が来るようになれば、もはや研究部門は“コストセンター”ではなく“新規事業の源泉”として認知されている証拠です。
ここで素早く対応できるかどうかが勝負所になります。
対応のために必要な体制整備
- 共同開発契約のテンプレートや法務フロー
最初に言及した機密管理の問題をスムーズに処理するため、法務部との連携を強化しておきましょう。 - 研究者のアサインとプロジェクトマネジメント
共同開発に入る研究者を誰にするか? プロマネ担当は誰か?ここで人選ミスをすると頓挫しやすくなってしまいます。 - 社内調整の迅速化
「なんでPR部門を通す必要があるの?」など余計なレイヤーを減らし、“外部との連携を優先する”仕組みを作りましょう。
事業化が見えると研究開発部門としての予算が出やすくなる
外部のコラボが決まり、具体的に事業化が見え始めると、経営層も「これは研究部門をもっと支援してもいいかも」と考え始めます。
ここで一気に研究部門のブランドイメージが社内外で高まり、追加予算が確保される可能性が出てきます。
研究部門としては、「外部連携を通じて収益見込みを出せるんだ」と証明した瞬間に、一気に社内での立ち位置が強固になるのです。
研究者が代表となり社内ベンチャーが生まれることも
これまでは研究者=文献調査や実験に専念、というイメージだったものが、PRやブランディング活動を通じて「事業開発に興味が湧いた」「外部パートナーとビジネスの話もしてみたい」という人材が出てきます。
大企業はジョブローテーションが活発なケースもあり、研究者が代表の社内ベンチャーが生まれることもあります。
これは研究者個人にとっても“最高のチャンス”となり得ます。
第9章:外注活用のコツ:戦略からクリエイティブまで一気通貫すべし
研究機関ブランディングに強い外部企業・クリエイターを見極める
大企業ほど「戦略だけコンサルに任せて、クリエイティブは別の制作会社へ…」と分割して外注しがちですが、これだとブランディングの一貫性が損なわれがちです。
理想は、戦略からクリエイティブ制作までを一気通貫で任せられるパートナーを探すことです。
そのほうが「研究の深い部分まで理解してもらった上で、最適な映像やデザインを作り上げる」流れがスムーズに進みやすいです。
自分ごと化してくれるパートナーを得るための交渉術
外注先が“金銭”だけで動くケースもあれば、“面白いプロジェクトかどうか”でモチベーションが大幅に変わるケースもあります。
研究部門のブランディングの場合、前者の要素が非常に大切です。
最初から予算を叩きつける方が外注先もスムーズに真剣になってくれます。
「実はこんな壮大な研究ビジョンがあって、世界を変えるかもしれないんです」と熱く語って、金銭を渋るケスで苦い経験をしてきた受託会社は、壮大なビジョンを語っても「またそうやってうまく働かそうとするんでしょ」と思われてしまって、話半分で取り合ってくれないことが多いです。
逆に、予算の話をせずに食いついてくる場合は、経験不足の可能性を疑うとよいでしょう。
経験不足の会社からすれば、予算が多少低くても案件を受けること自体に価値があるからです。
大企業の研究開発部門のブランディングという重要なプロジェクトの場合、目先のコストの前後よりも、長期的な成功確度を踏まえて外注を使う方がよいです。
第10章:研究機関のPRとブランディングを成功させるための心得
最後に、これまでの内容を踏まえて、「研究機関がPRやブランディングを進めるうえで大切な心構え」をまとめます。
オープンに出せる情報を常に探す
大企業の研究部門ほど、「研究は外に出さないもの」という風潮が根強いです。
もちろん、企業秘密や知的財産を守ることは重要です。
しかし、すべてを閉じこめてしまってはイノベーションを生む可能性を自ら潰してしまいます。
オープンにできる部分をきちんと整理し、積極的に発信する文化を育てましょう。
研究者こそ“語り部”になる
研究内容の魅力は、研究者が最も深く理解しています。
時に専門用語だらけになってしまうかもしれませんが、それをいかに噛み砕いて伝えるかが鍵です。
研究者が直接メディアやイベントで語ることで、説得力は数倍になります。
社内の巻き込みと応援体制を作る
研究所だけが張り切っても、他部門から「なんだそれ」と思われては進みません。
社内イベントや定例会議などで研究の魅力を発信し、できれば既存事業部や経営企画、広報部門を味方につける。
「あの研究所は会社全体のイメージを高めてくれる存在だ」という共感が得られれば、社内調整も進めやすくなります。
“挑戦する姿勢”がブランディングを強くする
新しい研究テーマや技術ほど、不確実性は高いものです。
PRしてもメディアが取り上げてくれないかもしれないし、外部の評価が厳しいかもしれない。
しかし、それでもアピールし続けることで「挑戦する姿勢」を社内外に示すことができます。
失敗を恐れ、結局何もしないまま終わるケースが多いからこそ、発信を続ける価値があるのです。
継続が力:一発花火ではなく“仕組み化”
「学会で発表したから、もう終わり」「今年は展示会に出したから十分」といった単発的な取り組みでは継続的な効果は望めません。
研究成果がアップデートされ続けるように、PRの体制もアップデートする必要があります。
外部の動きも刻々と変わるので、定期的な情報発信や戦略見直しが欠かせません。
これまで記載してきたことを活用して、ぜひ貴社の研究開発を世の中に広めていきましょう。
コーレができること
コーレでは、大企業のブランディング活動のPMO&BPOとして、戦略や企画から、クリエイティブ制作、マーケティング活動、コンテンツ制作、広報PRサポートなど、幅広く柔軟に対応しています。
ブランディング責任者の裏方としてゴーストライターのようにさまざまな稼働をする「ゴーストブランディング」というサービスを提供しています。
ぜひ、研究開発部門のブランディングの際には、一度コーレにご相談ください。
ゴースト新規事業開発:ゴーストブランディング(ブランディングPMO&BPO)
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コーレは、戦略コンサルタント、デザイナー、エンジニアが中心となり、AIとビジネスをつなぐAIコネクティブカンパニーです。戦略・企画から制作や開発、マーケティング支援や営業代行まで、一気通貫で上流から末端まで担うパートナーとして伴走します。お客様の要望に沿ったオーダーメイドなサポートをします。
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